近年、注意欠陥・多動性障害(ADHD)と慢性疼痛との関連が指摘されている。東京大学病院麻酔科・痛みセンターの笠原諭氏らは日本人成人を対象に、ADHDおよび自閉症スペクトラム障害(ASD)と慢性疼痛との関連を検討するウェブベースの横断的疫学調査を実施。慢性疼痛のない群と比べ、慢性疼痛群では成人ADHD自己報告尺度(ASRS)のスコアが有意に高く、両者の症状が有意に関連していた。一方、慢性疼痛とASD症状に関連はなかったとの結果をSci Rep(2025; 15: 13165)に報告した。(関連記事「難治性慢性疼痛例にはADHDスクリーニングを!」)
4週間以内に疼痛を経験した20~64歳の4,000例超が対象
国際疾病分類第11版(ICD-11)では、慢性疼痛を初めて疾患として追加。「3カ月以上持続または再発する痛み」と定義した上で、線維筋痛症や非特異性慢性腰痛など、基礎疾患が明らかでない慢性一次性疼痛と、特定可能な基礎疾患や組織障害に起因する慢性二次性疼痛に分類された。
最近、慢性一次性疼痛に含まれる片頭痛、線維筋痛症、過敏性腸症候群、慢性腰痛、特発性口腔顔面痛とADHDの関連が指摘されている。ADHDの発症には、痛みの知覚や制御に関わるドパミン系およびノルアドレナリン系の神経機能障害が関与しているため、ADHD患者は痛みに脆弱な可能性がある。動物モデルを用いた研究ではADHDに関連する脳の異常が、複数の神経生物学的メカニズムを介して中枢感作と過敏痛を引き起こすことが示唆されているものの、成人の発達障害と疼痛との関連を検討した疫学研究はない。
そこで笠原氏らは、ADHDまたはASDと疼痛の慢性化および強度との関連、発達障害と疼痛の関連経路を検討する横断的疫学調査を実施した。対象は、2020年7月29日~8月19日にオンライン調査パネルを通じて募集した20~64歳で4週間以内にいずれかの部位に疼痛を経験した日本人成人4,028例(年齢中央値45歳、男性50.3%)。
疼痛はNumerical Rating Scale(NRS:0~10点、高スコアほど強い痛み)を用いて4週間以内に経験した部位および最も悩まされている部位を評価し、3カ月以内の同部位における疼痛の頻度が「全くない」「数日」の例は非慢性疼痛群、「ほぼ毎日」「毎日」の例は慢性疼痛群に分類。
ADHD症状はASRS〔注意欠如スコア(0~36点)、多動性・衝動性スコア(0~36点)、合計スコア(0~72点)〕を用いて評価し、6項目から成るスクリーニングバージョンで4項目以上該当した例を陽性と判定した。
ASD症状は自閉症スペクトラム指数 (AQ:0~50点)を用いて評価し、33点以上を陽性とした。その他、身体的健康問題(PPH:高血圧、糖尿病、肥満、関節リウマチなど)および精神的健康問題(PMH)の有無も評価した。
全ての集団でNRSスコアが高いほどADHD陽性率が上昇
対象の内訳は、非慢性疼痛群が2,563例(年齢中央値42歳、男性49.1%、NRSスコア中央値4点)、慢性疼痛群が1,465例(同48歳、52.4%、6点)。非慢性疼痛群と比べ、慢性疼痛群はNRSスコアおよびBMIが高値で、男性と既婚者が多く、PPHおよびPMHを有する割合が多かった。
ADHD陽性率は、非慢性疼痛群の8.1%に対し慢性疼痛群では13.0%と有意に高く、全てのASRSのスコアも有意に高かった(全てP<0.001)。全体、非慢性疼痛群、慢性疼痛群のいずれの集団においても、NRSスコアが上昇するほどADHD有病率が上昇。NRSグレード5例(NRSスコア9~10)の38.3%が陽性と判定された(図-上)。
一方、ASD陽性率は非慢性疼痛群が8.6%、慢性疼痛群が9.3%と差はなく、AQスコアにも有意差はなかった。全ての集団でNRSグレードとASD陽性率との関連は認められなかった(図-下)。
図. ASRSスコアおよびAQスコアとNRSスコアの関係
(Sci Rep 2025; 15: 13165)
年齢、性、BMI、婚姻状況、学歴、雇用状況を調整した二項ロジスティック回帰分析の結果、ADHD症状と強い疼痛に有意な関連が示された(オッズ比3.49、95%CI 2.27~5.37、P<0.001)。PMHを加えると関連は弱まったものの、全てのモデルで有意な関連が維持された。
パス解析の結果、ADHD症状はPMH(直接効果0.439)、慢性疼痛の症状および重症度(同0.225、PMHを介した間接効果0.039)と関連しており、PMHと慢性疼痛の症状および重症度の関連(直接効果0.09)よりも強かった。
笠原氏らは研究の限界として、①ウェブベース調査によるサンプリングバイアスの可能性、②ADHD症状は自己申告に基づく、③気分障害や不安障害など他疾患が含まれる可能性、④横断研究であり因果関係は導けない-を挙げた上で、「大規模疫学調査によりADHD症状と慢性疼痛の症状および重症度に関連が示された。両者には脳内神経伝達異常という共通点があることから、慢性疼痛管理においてはADHDおよびPMHのスクリーニングと介入が有用な可能性がある」と結論している。
(編集部・関根雄人)