高年齢労働者の安全と健康

 人生100年時代といわれますが、健康な高齢者がふえるとともに長い老後を支える年金などに不安があるため、日本では欧米とくらべ就業を続ける高齢者が非常に多く、60歳以上の雇用者数はふえ続けています。しかし特に大きな疾患がなくても高齢者は聴力、視力、平衡感覚、筋力等が低下して労働災害の危険性が高くなり、60歳以上の労働災害発生率を30代と比較すると、男性は約2倍、女性は約4倍となっています。また労働災害による死傷者のなかで60歳以上の労働者が占める割合は増加傾向にあり、2022年は28%を超えました(新型コロナウイルス感染症への罹患によるものを除く)。災害のなかで、いちばん多いのは転倒事故ですが、それを防ぐための施設・装備、作業方法の見直し、高齢者の体力の維持増進、教育などの対策が必要になってきています。

(執筆・監修:帝京大学 名誉教授〔公衆衛生学〕 矢野 栄二)