テレワークの健康影響 家庭の医学

 2020年に世界中で広がった新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行に伴い、人から人への感染の可能性を減らすために、会社に行かずに自宅などで勤務するテレワークが急速に広まりました。こうした状況が人々の健康にどう影響するかはまだまだこれからあきらかになることも多いと思われますが、すでにいくつかの点があげられています。

■作業環境の問題
 テレワークでは自宅のテーブルなどでパソコン作業をすることが多くなると思われますが、事務作業を目的に設置された会社の机と異なり、たとえば自宅の食堂のテーブルや椅子で作業しているときなどは、その高さや照明が不適切な場合があります。その結果、職業性腰痛が出現したり、目、手指、腕、くび、肩などに負荷がかかって職業性頸肩腕障害が起こるかもしれません。

■作業管理の問題
 一般に業務の指示うち合わせが対面でなく、パソコン上である場合、指示内容を説明するための文書が多くなりがちで、その結果、作業量がふえます。また、作業の進め方においては、通常会社ではおのずと同僚が昼食に出て昼休みを取る、夕方には帰宅のために仕事を終了するという形で労働時間にメリハリがつき、むやみな長時間の連続作業を抑制する作用がはたらきます。しかし、そうした周囲からの影響がないなか、締め切りに追われたり作業に夢中になって、からだに負担をもたらすような長時間連続作業や深夜作業が発生しやすくなります。
 そもそも作業管理の基本である労働時間について、会社の建物への入退出に際してのタイムカードによる管理ができないので、会社サーバーへのアクセス時間などで管理することが多いのですが、サーバーを使わない作業などは記録や届けが落ちてしまいがちで、長時間労働につながります。また、携帯電話などで仕事をしていれば、深夜休日関係なく常時オンコール状態になってしまうこともあります。

■健康管理の懸念
 従来は業務の上司や同僚がそばにいて、いろいろな形でチームで仕事をしていたものが、個人がひとりでパソコンに向かっての作業では業務の属人化が強まります。締め切りが近い、業務量が多い、などのときには本来チームで分担して仕事をするところが、個人が背負う度合いが高まり、結果として休憩時間や休暇が取りにくくなります。
 さらにそれだけでなく、仕事上の負荷が重なり気分が落ち込んだり体調が不調のとき、職場の上司や同僚がそばにいればそれに気づいて、声をかけ、業務の調整や医療機関への受診をすすめることができますが、メールやたかだか画面上でしかコミュニケーションが取れなければ、健康不調への気づきが遅れる可能性があります。実際、新型コロナウイルス対策として不要不急の外出自粛が叫ばれ、単身独居の会社員のなかには気晴らしに外に出ることもできず、1週間誰とも話さなかったというような事例も生まれています。こうした状態でいったんメンタルの不調をきたせば、誰からも手を差し伸べられることなく、最悪の事態に至る可能性があります。

■その他
 会社外、特に自宅などで発生した労働災害をどう認定するかも、むずかしい問題ですが、自宅でのテレワークの途中でトイレに立って転んでケガをした事例を労災とするかどうかと議論になったことも現実に発生しています。

(執筆・監修:帝京大学 名誉教授〔公衆衛生学〕 矢野 栄二)