職業病と作業関連疾患 家庭の医学

 重金属など特別の有害物による特徴的な疾患を指す職業病に対して、作業関連疾患ということばがあります。作業関連疾患は、文字どおり作業に関連する疾患ですが、いわゆる職業病のようなある職業に限って発生する特別の病気ではなく、一般の疾患です。
 たとえば、たばこは慢性気管支炎の最大の原因ですが、それに職場の粉じんや刺激性のガスが加わると、ますます気管支炎がふえることになります。また、職場の化学物質でぜんそくになるといっても、一部の遺伝的な素因をもっている人だけしか発症せず、職場はその原因の一部にすぎません。さらに、職場のストレスのためお酒を飲みすぎて肝炎になるというふうに、職場は間接的な原因でしかない場合や、もともとのふつうのかぜが、仕事が忙しくて十分休めなかったために肺炎になったというように、作業関連疾患は職業が病気に関係していても、そのかかわりかたはさまざまです。
 このように唯一絶対の原因ではなく、関与の程度や形式がさまざまな職業をことさら疾患との関係で取り上げるのは、こうした疾患において職場の状況を変えることができれば、疾患を予防したり、その回復を早めたり、合併症を予防することができる場合が少なくないからです。働く人はその生活時間の多くを職場で過ごし、職業はその人たちの健康にとってさまざまな影響を与えています。
 しかし、こういう疾患と職業とのかかわりは、家庭側からみていては気づかないことがあります。病院を受診しても、医師は病気が患者さんの職業に関連していることに気づくことは多くありません。しかし、働く人の健康や病気を考えるときは、常に職業の影響を考慮に入れる必要がありますし、家族もそういう観点から考えてみてほしいと思います。

(執筆・監修:帝京大学 名誉教授〔公衆衛生学〕 矢野 栄二)