神経症性障害・ストレス関連障害・身体表現性障害 家庭の医学

解説
 これらの障害は、かつて神経症と呼ばれていたものです。神経症とは、①からだの組織に異常はない(器質的異常はない)、②しかし、身体面や精神面の症状がある、③心理的な原因や性格的な原因があるということが特徴です。
 ドイツ語ではノイローゼ(Neurose)と呼ばれていました。ノイローゼということばは日本語としてずいぶん知られていて、いろいろな意味で使用されてきましたが、本来は神経症のことです。
 最近、精神疾患がこまかく分類される傾向にあり、かつての神経症も、神経症性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害に分かれました。ここでは、個々に分類された病気の症状を記し、治療については最後にまとめます。
 神経症の特徴の第1は、器質的な異常がないということです。「心臓がドキドキする、死にそうで不安でしかたがない」と症状を強く自覚しても、心電図では異常が出ないといったようにです。本人は強く症状を自覚しますので、からだがわるいに違いないと思い込むのも無理はありません。しかし、からだに異常がないといっても、脳の中ではなんらかの問題がありそうだということが最近わかってきました。心理的な病気だという理解から、脳の神経のはたらきと関係しているかもしれないという理解へ進みつつあります。
 第2の特徴は、身体面、精神面での自覚症状が強いことです。身体面での自覚が強いので、症状に応じていろいろな診療科を受診する傾向があります。たとえば、めまいを感じて耳鼻咽喉科に行くといった類いです。また精神面での症状、特に不安が強く耐えきれないと自覚するので、自分は精神病ではないかといった不安がつきまとうことも多いのです。
 第3の特徴は、発病には心理的な出来事とある種の性格的な傾向とがかかわっていることです。なにもないのに病気がわるくなったというようなことはありません。からだの変化に敏感な人が、親しい身内の重病や死亡に際して、自分も同じ病気になるのではといった不安から、似たような症状を強く自覚してしまう、といったようなことです。
 神経症のなかでもっとも重要な症状は不安です。不安は、人が困難な状況や先行き不明な状況におちいったときに体験する、ごく一般的な精神状態の変化です。不安があるから、人は困難に対処し進歩してきたともいえ、われわれの生活にとってはなくてはならないものです。しかし、不安が高まりすぎると、いろいろな神経症にかかりやすい状態になるともいえ、いわば諸刃(もろは)の剣のようなものです。このような点でいかにも人間らしい病気といえます。

(執筆・監修:高知大学 名誉教授/社会医療法人北斗会 さわ病院 精神科 井上 新平)