英・University of OxfordのReneé Pereyra-Elías氏らは、ミレニアムコホート研究(MCS)のデータを用いて母乳育児期間と児の後年の学業成績との関連を解析し、結果をArch Dis Child(2023年6月5日オンライン版)に報告。「母乳育児期間の長さは交絡因子調整後でも、16歳時の学業成績と一定の関連が認められた」と述べている。

2000年代初頭生まれの1万8,000人を登録

 母乳育児期間が児の認知機能発達と関連するとの報告は複数あるが、社会経済的地位(socioeconomic position;SEP)や母親の知能といった交絡因子を十分調整していない研究も少なくない。母乳育児と学齢成熟との関連を示唆する報告もあるが、こういった研究の多くは、初等学校に入学した時点での評価にとどまっている。

 MCSは2000~02年生まれの英国住民1万8,000人以上を登録し、3、5、7、11、14、17歳まで追跡したコホート研究である。今回の解析でPereyra-Elías氏らは、母乳育児の期間と16歳時点での学業成績との関連を検討した。

学業成績データの得られた約5,000人を解析

 MCSに登録された児童1万1,695人のうち7,645人の学業成績が英国学業データベース(NPD)から得られた。そのうち、14歳までに追跡が中断された1,292人を除外し、最終的に4,940人のデータを解析対象とした。

 英国の中等教育総合資格試験(General Certificate of Secondary Education;GCSE)のスコア(1~9点)に基づき、英語(国語)と数学の成績を、落第(4点未満)、普通合格(4~6点)、優秀合格(7~9点)に分類した。さらに、別の6科目のGCSEスコアを加えた8科目到達(Attainment 8)スコア(英語と数学のスコアは2倍に換算。合計90点)も評価した。

 母乳育児の期間については母親の報告に基づき、母乳育児なし、2カ月未満、2~4カ月、4~6カ月、6~12カ月、12カ月以上に分類した。

母乳育児期間が12カ月以上で成績が良好な傾向

 英語GCSEに関しては、母乳育児なし群の落第率41.7%に対し、12カ月以上群では19.2%だった(P<0.001)。優秀合格の割合も母乳育児なし群では9.6%だったの対し、12カ月以上群では28.5%と、母乳育児期間との間に明らかな用量依存関係が認められた。

 多項ロジスティック回帰モデルで母乳育児期間と優秀合格との用量依存関係を相対リスク比(relative risk ration;RRR)として求めたところ、母親の認知スコアを含むさまざまな因子で調整後のRRRは、2カ月未満群の0.98(95%CI 0.83~1.27)に対し、12カ月以上群では1.38(同1.00~1.90)だった。

 数学GCSEについても、母乳育児なし群の落第率41.9%に対し、12カ月以上群では23.7%だった(P<0.001)が、母乳育児期間と落第との明確な用量依存関係は見られなかった。例えば、母乳育児4~6カ月群では母乳育児なし群と比べ落第のリスクは低かった(調整後RRR 0.72、95%CI 0.52~0.99)が、12カ月以上群ではリスクが高かった(同1.00、0.74~1.35)。

 母乳育児期間とAttainment 8スコアの間にも用量依存関係が認められた。

多価不飽和脂肪酸や微量栄養素が脳の発達を促進か

 母乳育児と学業成績の関連を説明する機序としてPereyra-Elías氏らは、母乳に含まれる多価不飽和脂肪酸や微量栄養素が神経発達を促進するのではないかと指摘(Reprod Med 2021; 2: 107-117)。さらに、母乳育児は母と児の絆を強めると言われており、それが認知機能や学業成績の向上に資する可能性に言及している。

 研究の強みとして同氏らは、英国を代表する大規模な小児コホートデータを用いた、母乳育児期間ごとの転帰を明らかにした、英国の教育システムに基づく科目特異的な転帰を明らかにした、SEPや母親の認知スコアなど幅広い交絡因子を調整した-ことなどを指摘。一方で、4,000人近くの学業データが得られなかったこと、母親の認知スコアは言語レベルの認知機能を捉えるだけのものであり隠れた交絡因子の存在は否定できないこと―を弱みとして挙げている。

木本 治