大うつ病性障害や双極性障害などの精神疾患患者の多くは睡眠障害を合併しやすく、特に概日リズム睡眠障害の一種である睡眠相後退症候群(DSPS)は社会生活に支障を来す可能性がある。アリピプラゾールの投与によりDSPSの症状が緩和されることが報告されているものの、その機序は不明であった。筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)副機構長/教授の櫻井武氏、李若詩氏らは、アリピプラゾールが概日時計中枢に直接影響を与えて睡眠覚醒リズムを調節したと解明してFront Neurosci(2023; 17: 1201137)に報告した。

アリピプラゾールが昼夜の明暗サイクルへの適応を促進

 アリピプラゾールはG蛋白質共役受容体(GPCR)に作用し、ドパミンD2受容体およびセロトニン1A(5-HT1A)受容体の部分作動薬として機能し、同時に5-HT2A受容体の拮抗薬にもなる。また5-HT2B受容体、5-HT2C受容体、5-HT6受容体、5-HT7受容体、D3受容体、D4受容体などのさまざまな受容体の調節を介し多様な作用を発揮するため、統合失調症や大うつ病性障害、双極性障害などの精神疾患に広く用いられる。近年、アリピプラゾールが概日リズム睡眠障害の症状を改善することが報告され、DSPSをはじめとする概日リズム睡眠障害の治療薬としても期待されている。

 櫻井氏らは、アリピプラゾールが概日時計中枢に直接作用することで、睡眠覚醒リズムを昼夜の明暗サイクルに適応させるとの仮説を立て検証した。まずマウスに10日以上アリピプラゾールを経口投与((0、12.5、20、40mg/kg日)し、12時間-12時間の明暗サイクルで飼育した後に、サイクルを6時間前進させる時差ぼけ実験を行った。その結果、対照マウスと比べ投与マウスは用量依存的に新たな明暗サイクルへの同調速度が上昇した。

さらに、概日リズムを可視化できる遺伝子組み換えマウスから眠覚醒周期を調節する視交叉上核(SCN)切片を作製。アリピプラゾールを投与したところ、SCNの細胞同期が阻害され、通常が同期しているSCN細胞間の概日リズムが脱同期することが示された。またアリピプラゾール投与によるSCNの細胞内cAMP濃度が上昇すること、同薬投与前に5-HT1A受容体で前処理するとcAMP上昇が見られないことも分かった(

図.アリピプラゾールの作用機序の模式図

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(筑波大学プレスリリースより)

 以上の結果について同氏らは「アリピプラゾールによってDSPS患者が早寝早起きできるようになるのは、体内の概日時計が昼夜の明暗サイクルに同調しやすくなり、睡眠覚醒リズムの位相が正常に戻るため」と考察。「今後アリピプラゾールの睡眠障害への適応が期待される」と展望している。

服部美咲