2型糖尿病の発症にはインスリン抵抗性に伴う高血糖が関与しており、腎障害や網膜症による失明など重篤な合併症を引き起こすことから、インスリン抵抗性が惹起される機序解明が望まれている。理化学研究所生命医科学研究センター粘膜システム研究チームチームリーダーの大野博司氏、特別研究員(当時)の竹内直志氏らと、神奈川県立産業技術総合研究所、東京大学病院などの共同研究グループは、インスリン抵抗性との関連性が示唆されているヒト腸内細菌を統合オミクス解析で網羅的に検討。腸管内の単糖類がインスリン抵抗性と強い関連を示すこと、インスリン感受性に関連する腸内細菌種がインスリン抵抗性を改善することが示唆されたとNature2023年8月30日オンライン版)に報告した。

インスリン抵抗性マーカーおよび代謝異常マーカーと単糖類が関連

 共同研究グループは東京大学病院予防医学センターを受診した日本人を対象に、BMI 25以上の肥満群、空腹時血糖110mg/dLまたはHbA1c 6.0%以上の前糖尿病群、対照群を各100例を目標に募集し、計306例を登録。身長、体重、生化学検査(コレステロール、血糖、HbA1cなど)の測定値とともに糞便、血液を追加採取し、糞便細菌叢解析、糞便メタゲノム解析、糞便メタボローム解析、血液メタボローム解析、血液サイトカイン解析、末梢血単核細胞CAGE解析を組み合わせた統合オミクス解析を実施した。

 糞便メタボローム解析の結果、既報を上回る2,849種の代謝物を同定。糞便代謝物と各種臨床マーカーとの関連性を検討したところ、インスリン抵抗性マーカーのHOMA-IRおよびBMIなどの代謝異常マーカーと、果糖やガラクトースなどの単糖類が関連していた〔ブドウ糖:スピアマンの偏相関係数(pSC)=0.14、調整済みP=0.11、果糖:pSC=0.30、調整済みP=1.9×10-5、ガラクトース:pSC=0.28、調整済みP=1.3×10-4、マンノース:pSC=0.21、調整済みP=6.3×10-3、キシロース:pSC=0.42、調整済みP=1.4×10-10〕。英国で実施されたTwinsUKコホートデータによる再解析でも、両者の関連を確認できた。

糞便中の単糖類は、腸内細菌と炎症関連マーカーをつなぐネットワークハブ

 続いて単糖類の増減と腸内細菌の関連について、単糖類に関連する腸内細菌種および腸内細菌の遺伝子機能を中心に検討した。その結果、腸内細菌は4つのパターンに大別でき、うちBlautia属、Dorea属が多いパターンAはインスリン抵抗性や単糖類と正の相関関係を示した一方で、Bacteroides属、Alistipes属が多いパターンBは負の相関関係が示された。

 さらに、パターンBは澱粉やショ糖などの複雑な糖質をヒトが吸収できる単糖類に変換する遺伝子機能が少なく、単糖類そのものを利用する遺伝子機能が多く検出された。

 単糖類は体内免疫細胞から炎症性サイトカインの産生を促すことで、インスリン抵抗性や肥満を増悪させる可能性が示されている(Nature 2006; 444: 881-887)。そこで免疫細胞のCAGE解析と血中サイトカインの解析の結果を組み合わせ、インスリン抵抗性に関連する腸内細菌、糞便代謝物、血漿代謝物、血漿サイトカイン、末梢血単核細胞転写物を同定。相関係数に基づく因子間の相互作用を明らかにすべく、ネットワーク解析を行った。その結果、糞便中の単糖類は腸内細菌と免疫細胞の炎症関連遺伝子、炎症性サイトカインを結ぶネットワークハブとしての役割を果たしていることが可視化された()。

図. インスリン抵抗性に関連する遺伝子プロモーター活性および炎症性・抗炎症性サイトカインのネットワーク

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(理化学研究所プレスリリースより)

インスリン感受性関連腸内細菌種でマウスの血糖低下作用が改善

 最後に共同研究グループは、統合オミクス解析で同定した腸内細菌種のうち、インスリン感受性に関連する細菌種〔Alistipes indistinctus(AI)、A.finegoldii(AF)、Bacteroides thetaiotaomicron(BT)〕を肥満モデルマウスに投与し、インスリンの血糖低下作用を比較することでインスリン抵抗性の改善効果を検証した。

 その結果、AIの投与により肥満モデルマウスのインスリン抵抗性が有意に改善し(P<0.001)、腸管および血中の単糖類濃度が有意に減少または減少傾向を示した(盲腸内容物濃度:マンノースP=0.027、ブドウ糖P=0.074、果糖P=0.046、マンニトールP=0.046、N-アセチルマンノサミンP=0.0011/血清濃度:果糖P=0.0045)。以上から、AIは腸管内の単糖類量を減少させ、インスリン抵抗性を改善することが示唆された。

 共同研究グループは「今回、インスリン抵抗性に関連する腸内細菌および糞便中代謝物を同定した。これらを標的にすることで、新たなプロバイオティクスやインスリン抵抗性の治療薬創出に期待したい」と結論している。

(渡邊由貴)