静岡県立静岡がんセンター頭頸部外科/飯田耳鼻咽喉科医院(茨城県)の飯田善幸氏らは、同センターに入院した未治療の頬粘膜扁平上皮がん(SCC)患者63例の医療記録を後ろ向きに解析し、日本人集団における頬粘膜SCCの臨床病理学的な特性を検討。その結果、女性患者は男性患者と比べて高齢で、大部分が非喫煙・非飲酒者だったとInt Arch Otorhinolaryngol2023; 27: e551-e558)に発表した。

非喫煙・非飲酒者で口腔多発がんが高頻度

 解析対象は、2002年9月~15年11月に頬粘膜SCCと診断された患者63例で、男性が38例(60.3%)、女性が25例(39.7%)だった。診断時の年齢中央値は、男性が68歳(範囲45~89歳)、女性が74歳(同51~91歳)で、男性と比べて女性で約5歳高かった(P=0.014、Mann-Whitney U test)。

 全体で、非喫煙・非飲酒者は29例(46.0%)だった。女性患者では、喫煙・飲酒者と比べて非喫煙・非飲酒者の割合(92.0%)が有意に多かった(P<0.001、Fisher's exact test)。

 多発性原発がん(MPC)を発症した患者は29例(46.0%、男性18例、女性11例、計59病変)だった。うち16例が喫煙・飲酒者、13例が非喫煙・非飲酒者で、MPCの発症率には両者で有意差がなかった。

 しかし、発症部位別に見ると両者には明らかな差があり、非喫煙・非飲酒者では口腔MPC(口腔底を除く)の発症頻度が高かった一方で、咽頭・喉頭、食道のMPCはまれだった。口腔、咽頭・喉頭、食道、その他のMPCの発症数は、順に喫煙・飲酒者で10病変(27.0%)、12病変(32.4%)、4病変(10.8%)、11病変(29.7%)、非喫煙・非飲酒者で17病変(77.3%)、0病変(0%)、1病変(4.5%)、4病変(18.2%)だった。

 治療に関しては、57例(90.5%)に外科手術、6例(9.5%)に初回治療として放射線療法が施行されていた。

5年全生存率は74.6%、二次原発がんのリスクあり

 5年全生存率は74.6%、5年疾患特異的生存率は78.8%だった。解析時点で、無病生存は40例(63.5%)で、死因の内訳は頬粘膜SCCが12例(19.0%)、二次原発がんが7例(11.1%)、その他の非がん性疾患が4例(6.3%)だった。

 単変量Cox回帰モデルによる解析の結果、5年全生存率には節外浸潤(ENE)の有無(P=0.0036)、切除断端陽性・陰性(P=0.0027)による有意差が認められたが、年齢、喫煙・飲酒習慣、腫瘍の部位、浸潤深度、多発性原発がんの有無による有意差は認められなかった。

 以上の結果から、飯田氏らは「日本人女性の頬粘膜SCC患者では、大部分が高齢の非喫煙・非飲酒者で、口腔MPCの発症率が高いことが判明した」と結論。「今後の研究で、非喫煙・非飲酒者における多発性がんの発症メカニズムを解明する必要がある。環境発がん因子やウイルス感染歴などの危険因子について検討することも重要であり、特に分子生物学的側面を明らかにする必要がある」と付言している。

(太田敦子)