フランス国立衛生医学研究所(INSERM)のHicham Achebak氏らは、スペインのマドリード県とバルセロナ県の入院データおよび気象データモデルから、呼吸器疾患と入院患者数、入院死亡率の季節変動を解析。「入院患者数は冬の方が多かったが、入院死亡率は気温の高い夏の方が高いことが確認された」とLancet Reg Health Eur(2023年11月6日オンライン版)に発表した。

入院死亡率の季節変動に関する検討は不十分

 外気温(ambient temperature)は、呼吸器の健康に寄与する大きな環境要因の1つだ。特に基礎疾患を有する脆弱(vulnerable)な人にとって、高温や低温への短期曝露は気温変動と並んで呼吸器疾患の罹患率や死亡率を高める要因である。

 温帯地域では呼吸器疾患による死亡率や入院率に季節変動があり、ピークは冬に、トラフは夏との認識が広まっている。しかし、入院死亡率の季節変動に関する知見は乏しく、外気温との関係は明らかでない。

 Achebak氏らはマドリード県とバルセロナ県(人口約1,200万人、スペイン総人口の26%)における2006~19年の入院データおよび気象/大気汚染データを用いた多施設横断研究を実施。入院死亡率と外気温における季節変動を評価するため、分布ラグ非線形モデル(distributed lag non-linear model;DLNM)を用いて、準Poisson回帰による時系列解析を実施した。

入院死亡率の季節変動は入院数と逆パターン

 対象データは呼吸器疾患による緊急入院171万12例(平均年齢60.4±31.0歳、女性44.2%)。このうち10万3,845例が入院中に死亡に至った(同81.4±12.3歳、45.1%)。
 両県いずれにおいても、入院数は気温が低い月で多く(1月が最多)、温かい月で減少した(8月が最少)。対照的に致死率は逆の季節パターンを示した(8月が最高、11月が最低)。

 時系列回帰モデルで入院死亡の相対リスク(RR)の季節性を推計したところ(外気温による調整なし)、致死率と同様のパターンが示された。季節性の形状はグラフ上でマドリード県とバルセロナ県で同様だったが、季節変動の幅はマドリード県の方が大きかった。外気温を調整したモデルでも同様のグラフパターンが示されたが、季節性のピーク対トラフ比(PTR)はマドリード県で1.433(95%CI 1.311~1.56)、バルセロナ県で1.211(同1.098~1.335)といずれも変動幅は、外気温未調整モデルより縮小した。

 毎日の平均気温と入院死亡とのRRを時系列準Poisson回帰とDLNMで推計したところ、高い気温は入院死亡のRR上昇と関連したが、低い気温はRRの変動に強い影響はなかった。最低死亡温度(MMT)に対する毎日の気温の99パーセンタイル値における入院死亡のRRはマドリード県で1.395(95%CI 1.211~1.606)、バルセロナ県で1.612(同1.379~1.885)だった。

 入院死亡リスクへの寄与負担(attributable burden)を見ると、夏の気温(6~9月)は呼吸器疾患による入院死亡リスクの16.2%(マドリード県)、22.3%(バルセロナ県)を占めた。また、女性は男性よりも高温に脆弱であった。

対策なければ温暖化で入院死亡率さらに上昇も

 以上の結果に関し、Achebak氏らは「低い気温が呼吸器疾患に及ぼす悪影響は、地球温暖化により軽減される可能性がある」と述べる一方、「温暖化による気温上昇に対する対策が行われなければ、暑い季節における呼吸器疾患の入院死亡負担は増大する恐れがある」と警鐘を鳴らしている。

木本 治