呼吸器疾患 家庭の医学

 呼吸器疾患には、肺炎・結核などのような感染性疾患、気管支ぜんそく、肺気腫に代表される慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺線維症のように肺がひろがりにくくなる拘束性肺疾患、肺がんのような腫瘍性疾患、さらには肺塞栓症のような血管の疾患がありますが、ここでは万病のもとであるかぜ(かぜ症候群)、気管支ぜんそく、慢性閉塞性肺疾患、および最近ふえ続けている肺がんについて、その予防法を簡単に述べます。なお、新型コロナウイルス感染症については、「呼吸器の病気」の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の項をご覧ください。
 
■かぜ症候群
□病気の特徴
 医学の専門書では単に「かぜ」とは呼ばずに、「かぜ症候群」と呼んでいます。かぜ症候群とは、いわゆるかぜ症状を呈し、上気道(鼻腔〈びくう〉・咽頭・喉頭)の炎症を特徴とする疾患の総称であり、1つの病気ではありません。
 この症候群は通常はウイルスの感染によって起こりますが、かぜ症状を示すウイルスはたくさん見つかっています。多くは冬に発症しますが、夏に発生するものもあり、これはウイルスの種類の違いによるものです。また同じ冬に発症するものでも、ウイルスの種類が違えば当然症状は違いますし、家族内でも違う症状を示す場合もあります。
 おもな症状は、のどの痛み、くしゃみ、鼻みず、せき、発熱などで、通常は2~3日、長くても1週間程度でよくなりますが、ときにはそれに引き続いて急性気管支炎を起こし、いわゆる「こじらせる」こともあります。

□養生のポイント
 かぜをひいたらかぜ薬をのむもの、かぜ薬はかぜを治す薬であると思っている人が多いようです。しかし、かぜの原因は多くの場合ウイルスですので、かぜに対する特効薬はなく、一定の経過をとって自然に治癒していくものなのです。ですから積極的な治療というものはなく、症状をやわらげる薬を服用しながら、自然の治癒を待つということになります。十分な休養と栄養をとることが、かぜを早く治す最上の方法といえます。

□生活上の注意
 かぜで熱があるときは食欲がなくなりますので、やわらかい消化のよいものでエネルギーを補うようにします。また、解熱薬によって大量の汗が出て脱水状態になることがありますので、水分を十分にとることも大切です。たんを切れやすくするためにも水分の補給は必要です。
 かぜの場合は十分な休養が必要です。また安静という意味で、熱のある期間の入浴は避けたほうがよいでしょう。室内は乾燥しないようにする工夫をします。特にストーブなどの暖房は空気もわるくなるので、換気をこまめにおこない、濡れタオルを干すなどの湿度を保つ対策が必要です。
 たばこは大敵です。家族に喫煙する人がいると、かぜが長びくことになります。かぜをひきやすい人は、自分はもちろん家族もなるべくたばこをやめるようにしましょう。
 マスク着用は気道の湿度を保つうえで効果的です。外出の際には必ず着用するようにしましょう。

■気管支ぜんそく
□病気の特徴
 気管支ぜんそくは気管支が狭くなり、呼吸、特に息を吐くことが苦しくなる病気です。その原因はいまなおはっきりとはわかっていませんが、近年ではアレルギーが関係していると考えられています。
 人によってそのアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)は違いますが、最近ではダニなども含め多くのアレルゲンがわかっていますし、複数のアレルゲンに反応してぜんそくを起こす人もいます。これらのアレルゲンの代表的なものは血液検査で調べることができます。
 特徴的なのは、その人によって発作の起こる季節が決まっていることがあることで、よく季節の変わりめに多くみられます。またアレルギーではなくても、なんらかの気道感染を起こした際に、その刺激でぜんそくを起こすこともあります。
 症状としては、ゼーゼーという特徴的な呼吸を伴った呼吸困難があり、せきやたんの増量を伴うこともあります。また、発作を起こしたときは起坐(きざ)呼吸(上半身を起こした状態での呼吸)といって座った姿勢のほうが楽なこともその特徴です。

□養生のポイント
 前述したように、人によってアレルゲンがわかることもありますので、病院で調べてもらい、そのアレルゲンを避けることは重要です。また、季節の変わりめ(特に寒くなり始める秋)や、1日のうちでは明けがたに注意が必要です。

□生活上の注意
 気管支ぜんそくに転地療法というものがありますが、実際に空気のきれいなところに行くと発作が起こりにくくなることがあります。しかし、現実的には転地というのはなかなか困難です。室内では、湿度を低めにし、またハウスダストをためないことが肝心です。
 精神的な原因で発作が誘発されることもあり、ストレスをコントロールすることも重要です。
 ほかの病気にもあてはまりますが、ぜんそくも軽いうちは簡単な治療(たとえば内服や吸入)で治すことが可能です。アレルゲンやストレスを避け、季節の変わりめに注意し、発作が起こったら早めに治療を受けることが大切です。特に最近では、副作用を少なく抑えた吸入薬もありますので、家庭あるいは職場に常備するのもよいでしょう。

■慢性閉塞性肺疾患(肺気腫、慢性気管支炎)
□病気の特徴
 肺気腫や慢性気管支炎などをまとめて慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)と呼びますが、これは肺への空気の流入・流出が障害される(気流閉塞)病気の総称です。肺気腫は終末細気管支から肺胞にかけて異常に拡大し、肺胞壁の破壊を伴うもので、本来は病理学的な概念でしたが、最近では臨床的診断が可能です。慢性気管支炎は、慢性または反復性に気道分泌が増加する状態です。
 慢性閉塞性肺疾患の症状は労作時の息切れですが、診断には呼吸機能検査が不可欠で、1秒率70%以下を閉塞性換気障害としています。

□養生のポイント
 慢性閉塞性肺疾患では喫煙が最大の要因です。疾患の進展を予防あるいは軽減させるために禁煙が必須であることを十分理解してください。また、家族や職場の理解と協力を求めて受動喫煙も避けてください。重症例では運動耐容能の低下、感染耐容能の低下、体重減少などを伴いますので、必要に応じて十分な栄養をとること、また感染によって急性増悪(ぞうあく)することが多いので、外出後のうがいや冬期のインフルエンザワクチンの接種など、感染対策も必要です。
 食事は過食を避けて、胸部の圧迫を避けることです。水分の摂取や入浴は、喀(かく)たんをきれやすくします。

□生活上の注意
 喫煙者がみな肺気腫になるとは限りません。また、患者のほとんどが男性ですが、その理由もわかっておりません。喫煙に感受性のある者は約15%であり、これには遺伝的素因が関与していると考えられています。
 しかしながら、慢性閉塞性肺疾患は、進行性・不可逆性の病気であり、原因のほとんどが喫煙であることから、進行を確実に遅らせることのできる治療は禁煙だけです。そこで、生活上の注意は、禁煙することにつきます。慢性閉塞性肺疾患に関する医学書を見ても、その治療法の第一に禁煙のしかたが書かれています。

■肺がん
 肺がんの80%は肺または気管支に原発したがんです。男性では、1993年に胃がんを抜いて以降、がん死亡の第1位となっています。女性では2020年の肺がん死亡は第2位ですが、第1位の大腸がんにせまるほどです。
 原因はすべてがわかったわけではありませんが、長期大量の喫煙者に約20倍多いとされ、また農村より都市生活者に多いことから大気汚染も関係しているかもしれません。なお、職業上特殊な物質(たとえば石綿など)にさらされる人にも多いことがわかっています。
 となれば、予防法ははっきりしています。禁煙と定期検診です。なんといっても早期発見が重要で、初期のがんでは外科治療が可能で、傷が小さいなどからだに負担の少ない胸腔鏡(きょうくうきょう)下手術ですむ場合も多いです。進行した肺がんの場合は放射線療法や化学療法をおこなっても完全な治癒は望めません。

(執筆・監修:自治医科大学附属さいたま医療センター 総合医学第1講座 主任教授/循環器内科 教授 藤田 英雄)