英国では約20年前に糖尿病網膜症検診プログラム(DESP)が導入され、糖尿病網膜症(DR)を検出するため、糖尿病患者に対して年1回の検診を実施している。2016年からは、失明リスクが低い患者に対して隔年の検診が推奨されるようになったが、その影響に関して人種・民族ごとのエビデンスは限定的である。英・University College LondonのAbraham Olvera-Barrios氏らは、多民族を含む大都市部でDESP検診を受けた約8万2,000例のデータを基に、DRのない糖尿病患者に隔年検診を実施した際の影響をシミュレーション。黒人とアジア系、および45歳未満の患者の約半数において、重篤な眼疾患の発見と専門医への紹介の遅れが生じる可能性が示唆されたことをBr J Ophthalomol(2023年10月24日オンライン版)に報告した。
45歳未満の若年層でSTDRが高率
Olvera-Barrios氏らは、ロンドン北東部において2012~21年に毎年DESP検診を受け、かつ2回連続DRが検出されなかった12歳以上の糖尿病患者のデータを、最長8年にわたって後ろ向きに追跡。失明リスクの高いDR(STDR)および増殖糖尿病網膜症(PDR)の年間発生率を全体および人種・民族別で算出し、もしこれらの集団で隔年検診を行った場合の、STDRおよびPDRの発見の遅れを検討した。
対象は8万2,782例で、平均年齢は56.7±14.4歳、男性比率は52%。主な人種・民族構成は、白人37%、南アジア系36%、黒人16%、他のアジア系5.8%だった。
平均4.3±2.4年の追跡期間に、1,788例でSTDRが(100人・年当たりの発生率0.51、95%CI 0.47~0.55)、103例でPDRが発見された。この集団で仮に隔年検診を実施した場合、STDRの56.3%(1,788例中1,007例)、PDRの43.6%(103中45例)で診断・専門医への紹介が1年遅れることになる。
また、高齢の集団(特に55~65歳群)との比較で、若齢者(45歳未満)でSTDRの発生率が高かった。これについて、同氏らは「発症後の余命の長さを考慮すると、特に懸念される」との見解を示している。
発生率と診断の遅延率に人種・民族格差
人種・民族別の100人・年当たりのSTDR発生率は、南アジア系0.55(95%CI 0.48~0.62)、白人0.34(同 0.29~0.40)、黒人0.77(同 0.65~0.90)、他のアジア系0.48(同 0.31~0.64)で、黒人が突出して高く、次いで南アジア系だが、他のアジア系も白人に比べ高かった。
人種・民族別の10万人当たりのSTDR診断累積遅延数は、黒人で1,904(95%CI 1,683~2,154)、南アジア人で1,276(同1,153~1,412例)、白人で844(同745~955例)だった。
これらの結果から、Olvera-Barrios氏らは「隔年検査では、特に黒人やアジア系、若齢者において、STDRおよびPDRの検出が1年遅れる可能性が示唆された」と結論。「人工知能(AI)などの新技術を用いて毎年検診の費用を下げるか、社会人口統計学的背景に基づく検診間隔の微調整を行うなどして、公平な検診が提供できるようにする必要がある」と付言している。
(小路浩史)