グラム陰性菌による菌血症は世界的に増加しており、抗菌薬の静注から経口投与への切り替えのタイミングを最適化することは、治療の質改善と医療資源の有効利用に向けた重要な一歩となる。デンマーク・Copenhagen University Hospital-Amager and HvidovreのSandra Tingsgård氏らは、非複雑性グラム陰性桿菌菌血症患者を対象に、初回血液培養後4日以内の経口抗菌薬投与への切り替えと静注継続の90日全死亡率について、target trial emulation(TTE:観察データを基にランダム化比較試験を模倣する手法)を用いて比較。90日全死亡リスクは、両群で同等だったことをJAMA Netw Open2024; 7: e2352314)に報告した。今回の知見は、経口への早期切り替えが、早期退院といった治療の質の改善や医療資源の節約につながる可能性を示唆している。

914例をTTE解析に組み入れ

 2018年1月~21年12月の3年間にデンマーク・コペンハーゲンの医療機関4施設で治療を受けた非複雑性グラム陰性桿菌菌血症の成人患者914例のデータを電子カルテから抽出。組み入れ基準は、①血液培養でグラム陰性菌の増殖が認められ、②初回血液培養後4日以内に臨床的安定性が確認され、③4日目の治療感受性データが入手でき、④適切な経験的抗菌薬静注が血液培養後24時間以内に開始されているもの―とした。

 主要評価項目は90日全死亡率とし、初回血液培養後4日以内に経口抗菌薬に切り替えた場合と、初回血液培養後5日以上静注を継続した場合で比較した。

 治療の逆確率重み付け法により交絡を調整し、プールしたデータを用いてintention-to-treat(ITT)集団とper-protocol(PP)集団のそれぞれでロジスティック回帰分析を行い、リスク差、リスク比を推算した。95%CIはブートストラップ法により求めた。

一貫して死亡リスク差は認められず

 対象の年齢中央値は74.5歳(四分位範囲63.3~83.2歳)、男性は56.0%で、早期の経口抗菌薬への切り替え群は433例(47.4%)、静注継続群は481例(52.6%)だった。

 静注継続群と比べ、早期経口投与切り替え群は若齢で併存疾患が少なく、市中菌血症および尿路感染に起因する菌血症が多く、血中C反応性蛋白(CRP)濃度が高かったが、重み付けにより両群間の背景を均一化した。

 追跡期間中に99例(10.8%)が死亡した。死亡率は、早期切り替え群と比べ静注継続群で高かった(6.9% vs. 14.3%)。

 ITT解析における90日全死亡率は、早期切り替え群が9.1%(95%CI 6.7〜11.6%)、静注継続群が11.7%(同9.6〜13.8%)で、リスク差は−2.5%ポイント(同−5.7〜0.7%ポイント)、リスク比は0.78(同0.60〜1.10)。PP解析では、90日全死亡率は、早期切り替え群が9.6%(95%CI 6.7〜12.4%)、静注継続群が9.7%(同7.6〜11.8%)で、リスク差は−0.1%ポイント(同−3.4〜3.1%ポイント)、リスク比は0.99(同0.70〜1.40)。全体として、90日全死亡率は両群で同等だった。

 これらの結果は、年齢によるサブグループ解析や免疫抑制患者を加えた感度分析でも一貫していた。

 Tingsgård氏らは「非複雑性グラム陰性桿菌菌血症の患者において、初回血液培養後4日以内の早期に抗菌薬投与を静注から経口に切り替えても、90日全死亡リスクは静注を継続した場合と同等だった。早期の経口投与への切り替えは、長期の静注に代わる手段として有用な可能性が示された」と結論している。

(小路浩史)