心不全(HF)を適応症とするネプリライシン阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)バルサルタンの配合剤であるアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)サクビトリルバルサルタン。同薬が対象となる患者の多くは高齢者で、HF以外にも入院リスクを高める併存疾患を有するケースが多い。米・Brigham and Women's Hospital, Harvard Medical SchoolのHenri Lu氏らは、同薬がHF以外による入院リスクを減らせるかを検討する目的で、PARADIGM-HFおよびPARAGON-HFの事後統合解析を実施サクビトリルバルサルタン群で全入院リスクが有意に低下していたとの結果をJAMA Cardiol(2024年8月30日オンライン版)に報告した。

NYHAクラスⅡ~ⅣのHF 1万3,194例を対象に検討

 医療経済への影響を背景に近年、薬物療法があらゆる原因による入院に及ぼす影響に期待が高まっている。サクビトリルバルサルタンは、HF患者の心血管死またはHFによる入院リスクを低減させ、左室駆出率(LVEF)が正常範囲を下回る患者に特に有効であることが示されている。しかしHF患者は高齢で併存疾患を有する例が多く、HFにかかわらず入院リスクが高いサクビトリルバルサルタンの全入院に及ぼす影響は明らかでなく、HF入院を減らす同薬の利点が心血管疾患以外の入院の増加によって相殺される可能性についても不明である。

 Lu氏らは今回、サクビトリルバルサルタンに関する2試験PARADIGM-HFおよびPARAGON-HFの事後統合解析を行い、同薬の心血管疾患以外の入院に対する効果と入院の主な原因についてLVEF別に評価した。

 PARADIGM-HF(LVEF 40%以下の患者)およびPARAGON-HF(LVEF 45%以上の患者)の事後解析は、今年(2024年)2月5日~4月5日に実施された。

 両試験の対象者はニューヨーク心臓協会(NYHA)心機能分類クラスⅡ~Ⅳ、ナトリウム利尿ペプチドの上昇を伴うHF患者1万3,194例(平均年齢67歳±11歳、男性67.3%、平均LVEF 40±15%)で、サクビトリルバルサルタン群またはレニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASi)群にランダムに割り付けられた。PARADIGM-HF試験ではエナラプリル、PARAGON-HF試験ではバルサルタンが用いられた。

LVEF 60%未満例で全入院リスクが有意に低下

 追跡期間中央値2.5年〔四分位範囲(IQR)1.8~3.1年〕において、全入院は6,145例に発生した(サクビトリルバルサルタン群2,995例、RASi群3,150例)。

 解析の結果、RASi群に比べサクビトリルバルサルタン群で全入院リスクが有意に減少していた〔ハザード比(HR)0.92、95%CI 0.88~0.97、P=0.002〕。初回発生率は、サクビトリルバルサルタン群が100人・年当たり25(95%CI 24~26)、RASi群で27(同26~28)だった。絶対リスクの減少(ARR)は100人・年当たり2.1で、1回の入院を減らすために必要な治療数(NNT)は48人・年となった。

 LVEFによる全入院の治療異質性が観察され(相互作用のP=0.03)、LVEF 60%未満例では全入院リスクの有意な低下が認められた(HR 0.91、95%CI 0.86~0.96)。一方、60%以上例では有意差がなかった(同0.97、0.86~1.09)。

心疾患、肺疾患による入院リスクが低下

 入院の原因が特定できたのは6,145例のうち94.1%。サクビトリルバルサルタン群における全入院の減少は、主に心疾患および肺疾患によるものであることが分かった(心疾患:HR 0.88、95%CI 0.82~0.95、肺疾患:同0.75、0.57~0.97)

 サクビトリルバルサルタン群では、全入院または全死亡の複合リスクが有意に低下し(HR 0.92、95%CI0.87~0.96、P<0.001)、ARRは100人・年当たり2.5、NNTは40人・年だった。LVEF別に見ると正常値を下回る例でメリットが得られるなどの異質性が観察された(相互作用のP=0.02)。

結果の解釈には考慮を

 ただし今回の解析は事後解析であり、HF以外の入院の原因は中央審査委員会で判定されていないため分類にばらつきがある他、多重比較法が用いられていない、両試験で進行性の非心血管疾患例や平均余命が著しく短い例が除外されているなどから、結果の解釈には考慮を要する

 以上の結果を踏まえ、Lu氏らは「サクビトリルバルサルタンは全ての原因による入院を有意に減少させ、LVEFが正常値を下回る患者で顕著だった。入院リスクの低下は主に心疾患および肺疾患の入院リスクの低下によるものと考えられたが、心血管疾患以外の入院の増加によって相殺されることはなかった」と述べている。

(編集部・田上玲子)