教えて!けいゆう先生

研修医になったばかりのあなたへ
10年目の医師が伝えたいこと

 今春もまた、医学部を卒業した大勢の皆さんが、臨床研修医として臨床の現場で活躍を始めます。私たち医師は、医師国家試験に合格して医師免許を取得すると、医師臨床研修制度にのっとって、卒後2年間、各診療科を一定期間ごとにローテートする決まりがあります。専門分野に特化した医師としての診療を始める前に、幅広い臨床知識と技術を習得することが目的です。研修中とはいえ、彼らは一定のトレーニングを積んだ、医師免許を持つれっきとした医師です。しかし、患者さんの立場からすれば、研修医と接する際、少なからず不安を覚える方もいるのではないかと思います。

 そこで、今春、医師として10年目を迎える筆者から、研修医の皆さんに向けたアドバイスを書いてみたいと思います。私自身、指導者と呼ばれるにはまだ年数が浅いとは思いますが、先輩がどのような指導をしているかを知っていただくことも大切ですので、この場をお借りしたいと思います。

困ったら迷わず指導医を呼ぼう

 ◇人の生死に関わる現場

 新研修医の皆さんは、国家試験に合格するため、これまで医学のあらゆる領域を必死で勉強し、膨大な量の知識を身につけてきたと思います。「この知識を現場でついに生かすことができる」。そう期待しているかもしれません。

 しかし、臨床経験が浅い頃に目指すべきなのは、「自分の実力を遺憾なく発揮すること」ではありません。「患者さんの安全を守ること」です。研修医とはいえ、現場では一人の医師として患者さんを担当します。経験不足による自らの判断ミスが、患者さんの不利益につながるリスクは常にあります。

 人の生死に関わる現場で求められるのは、きめ細やかなリスクマネジメントです。自分の限界を常に認識し、「困ったら迷わず指導医を呼ぶ」ということを徹底してほしいと思います。

 指導医が目の前で問題を解決する姿を見て、現場経験を積んで初めて、これまで蓄えた知識を生かすことができるでしょう。最初は自力で何もできなくて当たり前です。患者さんも、相手がビギナーであるということは簡単に見抜いています。背伸びをせず、慌てず落ち着いて、石橋をたたいて渡るように「安全第一」を心がけてください。

 ◇信頼関係の構築

 患者さんから見れば、研修医も一人の医師です。自分のかかった病気や治療に関する疑問を研修医に尋ねることもあるでしょう。この時、医師として信頼を損ないたくないあまり、自力で説明し、その疑問を解決したいと思う人が多いはずです。かくいう私も、当初はそうありたいと願っていたのでよく理解できます。

 しかし、病気に不安を抱えた患者さんは、医師からのたった一言がきっかけで、受けている医療全体に不信感を抱いてしまうことがあります。医師の何気ない一言が患者さんを傷つけ、取り返しのつかない事態に発展することもあります。

 皆さんはこれまで必死で勉強し、病気の治療法に関する豊富な知識を蓄えてきたと思います。しかし、私たちが相手にしているのは「病気」ではなく一人の人間です。どれだけ効果の期待できる治療を知っていても、どれだけ技術が優れていても、患者さんとの信頼関係なくして前には進めません。

 どんな薬にも、どんな手術にも、一定の確率で副作用や合併症が起こります。私たちがどれだけ腕を磨いても、これをゼロにすることはできません。患者さんとの信頼関係ができていなければ、こうした問題が起きた際、医師のミスではないかと患者さんは疑うでしょう。自分の治療に研修医が関わったからではないか、と疑念を抱くかもしれません。

 自立した医師であることを示すのも大切ですが、必ず自分の背後に信頼に足る指導医が控えていて、チームの一員として動いている、という姿を見せる方が、かえって患者さんは安心です。結果的にその方が、研修医として信頼を勝ち得る可能性は高いはずです。

 ◇研修医なりのメリットを生かそう

 近年、医療は細かすぎるほどに専門分化し、医師は自分の専門分野に特化した診療を長年行っています。外科領域でも、医療ドラマに出てくるような、心臓や呼吸器、消化器などを全て手術できる「なんでも外科医」がいないのは当然のこと、消化器外科医ですら、それぞれが食道、胃、大腸、肝臓、などと臓器に特化した専門性を有しています。

 一方、人間の体は複雑系です。病気による体の異常が一つの臓器だけに特化して現れる、ということはありません。意外な部位に、想像もしない形で異変が現れることもあるかもしれない。ここは、いい意味で全身を広く浅く学んできた研修医の出番です。

 研修医の純粋な視点が、現場に新たな考えを生み出すことは現実にあります。研修医なりのメリットを生かせるチャンスだと思って、どんどん意見するとよいでしょう。

 これから、慣れない現場で精神をすり減らす人も多いかもしれません。しかし人の生死に関わり、患者さんから感謝される喜びは、何ものにもかえがたいはずです。ぜひ、ここに書いたことを頭の片隅に置いて、充実した日々を送っていただきたいと思います。


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