骨粗しょう症治療薬の副作用
抜歯などの後に顎骨壊死
骨粗しょう症の治療薬であるビスホスホネート製剤(BP)の副作用により、顎の骨が腐った状態(壊死=えし)になる例が問題になっている。発症はまれだが、BPを服用している人が抜歯などの歯科処置を受けた後に起こることが多い。その治療法や予防策を、東京女子医科大学(東京都新宿区)歯科口腔(こうくう)外科/先端生命医科学研究所の貝淵信之・助教に聞いた。
顎骨壊死になりやすい主な要因
▽骨転移の治療でも発症
骨は古くなると壊され(骨吸収)、新たに形成された骨と入れ替わる。この骨吸収と骨形成のバランスが骨吸収側に傾き、骨がスカスカの状態になるのが骨粗しょう症だ。BPは過剰な骨吸収を抑える骨吸収抑制薬で、骨粗しょう症の治療に広く使われている。
顎骨壊死は、BPと同じ骨吸収抑制薬で2013年に登場したデノスマブでも起こる。BPやデノスマブはがんの骨転移にも有効性が認められており、骨転移の治療で使用している人にも顎骨壊死が起こることがある。発生頻度はBP、デノスマブとも非常に低いが、日本口腔外科学会の15年の全国調査で、BPの使用による顎骨壊死の症例の増加が著しく、抜歯により発症するリスクは約7~10倍となっているなどと報告された。
顎骨壊死の初期には症状のないことが多い。進行すると壊死した顎骨が歯ぐきや顎の皮膚から露出し、強い痛みが出る。貝淵助教は「骨吸収抑制薬を使っている人で、口の中に異変を感じたら、すぐに歯科医に診てもらうべきです。また、歯科医にはBPあるいはデノスマブを使っていることを必ず伝えてほしい」と訴える。初期なら口腔内洗浄や抗菌薬の使用で治ることもあるが、症状が進むと外科手術が必要になる。
▽投与前に虫歯などの治療を
BPやデノスマブによって顎骨壊死が起こる原因は、まだ解明されていないが、顎骨は他の骨より細菌の感染を受けやすい特徴がある。「口の中には常にさまざまな細菌がいて、その感染から顎骨などを守っているのは薄い歯肉だけです。抜歯、インプラント治療などの外科的処置で歯肉のバリアーが破綻した際に、顎骨に細菌が感染して壊死が起こると考えられます」と貝淵助教。
歯周病や入れ歯が当たってできた歯肉の傷から細菌感染が生じることもある。そのため「BPやデノスマブで治療をしている人は、虫歯、歯周病の治療や入れ歯の調整をきちんと受け、口の中を清潔に保つことが大事です」とアドバイスする。BPやデノスマブによる治療を開始する2週間前までに、歯科治療を済ませておくことが望ましいという。
東京女子医大病院ではこれらの薬を使用する前に、患者が院内の歯科口腔外科を受診する体制を整えた。今後は、骨粗しょう症やがんの治療医と歯科医の連携が、全国的に広がっていくことが望まれる。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/03/26 06:00)