特集

てんかん患者100万人
高齢者で発症増加

 ◇2剤投与・2年間が基本

 治療の第一の選択肢は抗てんかん薬の投与だ。残念ながら現時点ではてんかんを治す抗てんかん薬は開発されていない。発作を抑えるためには薬を飲み続ける必要がある。「ただし、2剤の投与で、2年間続けても発作が消失しない場合には薬剤抵抗性のてんかんである可能性が強い。3剤目を足しても発作消失率は1%程度であると報告されている」

 薬だけでは効果が期待できないときは、脳の手術も選択肢になる。発作を引き起こす脳の部位を確定し、なおかつその部位を切除しても脳の機能を障害しない場合には外科治療が有効だ。ただし、側頭葉てんかんの場合には手術による記銘力障害の出現を回避する手術を考慮する必要がある。

東北大学の遠隔てんかん症例検討会

東北大学の遠隔てんかん症例検討会

 ◇少ない専門医

 「てんかんの有病率は0・8~1・0%。患者数は約100万人と推定される。決して珍しい病気ではない」

 東北大学病院てんかん科の柿坂庸介講師はこう指摘した上で、「医療者側がてんかんだと気付かないケースもある。さらに、てんかんの専門医は700人程度と患者数に対して極めて少ない上に、全国的に見ると偏在している」と、現状の課題を挙げる。

 医療には「鉄の三角」という言葉が存在する。「コスト(費用の抑制)」、「質」、「アクセス」―のことだ。費用と質を守ることと引き換えに、患者の専門医療機関へのアクセス低下が起こっている。「言ってみれば、三兎(さんと)を追うものは一兎をも得ず、だ」と、その難しさを表現する。

 ◇遠隔てんかん症例検討会

 そうした中で東北大学が力を入れているのが、遠隔テレビ会議システムを用いた「遠隔てんかん症例検討会」だ。東北大学では2010年から月に1回2時間、症例検討会を開催。19年2月末までに延べ102回に達した。現在は同病院てんかん科を多地点接続サーバーで結ぶことで外部からの参加が可能だ。1回当たりの平均参加者数は21人に上る。

 モデルとなったのが、米国のニューメキシコ大学がC型肝炎の診断・治療に関し03年に始めた「プロジェクト・エコー」だ。ニューメキシコ州は面積が全米第5位、人口は全米第36位。専門医療機関は大都市などに偏在し、へき地の患者は、専門医医療機関に受診できずに亡くなるか、できても手遅れ、という状況が日常的だった。これを打破すべく、同大学は地方の一般医に対して定期的に肝炎の症例検討会をテレビ会議システムを介して行った。

東北大学病院てんかん科の柿坂庸介講師

東北大学病院てんかん科の柿坂庸介講師

 ◇一般医の教育で患者救う

 「一般医を教育することで、より多くの患者を救う」のがプロジェクト・エコーの哲学。上記の取り組みで一般医も肝臓専門医と同等の診療が可能になった。

 このプロジェクトは以下のような条件を満たす疾患が対象とされる。治療に専門性が必要で、未治療では重篤な結果を招く。日々進歩する治療法が存在しているが、一般医に浸透していない。柿坂講師は「このプロジェクトはてんかんにも適応できる」と言う。

 ◇狙いは治療の底上げ

 東北大学の遠隔症例検討会では症例提示法をシンプル化し、専門医以外にも分かりやすくしている。1回につき3症例を取り上げる。北海道から宮崎県まで参加する医師が所属する医療機関は50を超えている。柿坂講師は「すべての一般医が専門医である必要はない。発作にはこういうタイプがある、こういう薬が効果があるなどといったことを知ってもらい、てんかん治療を底上げすることが狙いだ」と強調する。(鈴木豊)

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