医学生のフィールド

将来のロールモデルになる人を探そう
慶応医学部有志が企画・運営する「明日の教室」

 ◇初回は「将来の医療」テーマに起業家招く

 ―すぐに実際の行動に移したということですね。

 宮崎大志さん
 宮崎さん 僕が最初に参加したのは昨年1月の終わり頃です。門川先生や亀苔さんたちと、一緒にランチを食べながら、ミーティングをしました。5月に株式会社ミナケアの代表取締役である山本雄士先生(医師)を招いて第1回の開催に至りました。

 ―記念すべき第1回はどんなテーマだったのでしょうか。

 亀苔さん メインテーマは「将来の医療の在り方」でした。現在行っている医療は「病気になった人」を対象にしていますが、山本先生は、そもそも病気にさせないための予防から回復期のケアまでを医療と捉え、報酬の見直しを実現するために厚生労働省や医師会に働きかけをしています。

 さらに、ご自身がハーバードビジネススクールの留学時代に受けた教育を若い世代にも体感させたいという思いから「山本雄士ゼミ」を立ち上げ、本場さながらの講義をしています。

 この山本ゼミの受講者に「明日の教室」への参加を呼びかけていただいたことで、初回でありながら40人を超える医学生や医療関係者の方々が足を運んでくれました。

  宮崎さん 山本先生は講演で、ヘルスケアや予防医療などの医療業界の辺縁領域に焦点を当てながら、これからの医師が担う業務範囲や、広がりつつある製薬会社・医療機器メーカー・地方自治体などの医療に対する役割について語りました。

 日本の医療の現状に関して広く深いイメージを伝え、参加者の職種選択の助けとなる講演でした。明日の教室のキャリア教育としての性格が十二分に現れ、とても良いものになったと思います。

 ―ほかにどのような先生が登壇されたのですか。

 宮崎さん 講演は合計で7回開催しましたが、第2回は、日本医療福祉生協連の家庭医療学開発センター長で家庭医・総合診療医の大家でもある藤沼康樹先生でした。

 藤沼先生が確立したのは、地域と人に根差したソーシャルな在宅ケアです。総合診療科の専門医としての役割や地位は日本ではいまだに確立されていませんが、一方で、慢性疾患のケアや終末期医療などにおいて疾患包括的に一人一人の患者を在宅で診ることのニーズが増しています。藤沼先生の仕事内容は今、とても先進的で熱い分野です。講演を通して総合診療医としての生き方に肌で触れることができました。

 ◇リアルなキャリアパスや「医療×AI」も学ぶ

 亀苔さん 第3回は、慶応義塾大学の医学部外科学教授で大学病院の病院長でもある北川雄光先生です。北川先生は外科医・研究者として最先端医療をけん引してきました。ご自身の経験に加え、医師になるうえで何が求められて、どのように自分を鍛えていくのか。また海外で活躍している他の先生方のキャリアも紹介し、医局のことについても包み隠さず教えてくださいました。

 さらに、大学病院で北川先生が手掛けている新たな改革についても話しました。「大学の臨床医・研究者の身近でリアルなキャリアパスを知りたい」という多くの学生の要望に直球で応えていただき、有意義でとても貴重な時間でした。

 ―大学の中にいても、普段はなかなかこういう話を聞く機会がないのですね。

 学生たちが話を聞きたい講師を招く
 亀苔さん そうですね。僕はもともと外科医に憧れていましたが、北川先生の話を聞いて、自分のロールモデルに出合えたかのような衝撃を受けました。北川先生は以前、5年生と6年生を対象に課外で外科のトレーニングをするための「雄飛塾」という勉強会を主宰していましたが、休止中とうかがい、思わず「再開してほしいです!」とお願いしました。

 それから、月に1回のペースで開催してくださっています。このプロジェクトがきっかけで再開してもらえたことが何よりもうれしく、この団体に携わって本当に良かったと思いました。

 宮崎さん 自分も外科医を志望していて、5年生になったら雄飛塾に参加しようと考えています。このように講演の演者と講演後もアカデミックにつながれること、参加者全員に講演を通じ自らのキャリアの実現の助けになるような出会いのチャンスがあることが「明日の教室」の大きな魅力と特徴ですね。

 第4回は、これもみんなの関心が高かった「医療×AI」。アイリス株式会社の最高経営責任者(CEO)であり、現役の救急医である沖山翔先生を招きました。沖山先生は救急医療に幅広く携わる日々を過ごすうちに、「医学知識はストックできるが、名医の技はその人の消滅とともに姿を消す」ということに気付き、技術の共有をミッションとしたアイリスを設立されました。

 AIは画像診断をはじめ医療分野でも実用化されてきています。もしかしたら数年後には診断や治療はAIが行い、医師は患者の心理面のサポートに従事するだけの時代が来るかもしれないと聞き、「生身の医師にしかできないことは何か」を改めて考えさせられる示唆に富んだ内容でした。


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