痴漢は性依存症の可能性
病気としての認識と治療も(筑波大学人間系心理学域 原田隆之教授)
犯罪行為の一つである痴漢。刑法の「強制わいせつ罪」または各都道府県の「迷惑防止条例違反」が適用され、罰則も定められている。一方、逮捕された人の5年以内の再犯率は約4割に上る。臨床心理学や犯罪心理学を専門とする筑波大学人間系心理学域の原田隆之教授は「治療が必要な性依存症の可能性もあるので、罰するだけでは不十分です」と話す。
性依存の認知行動療法(一例)
▽女性や性へのゆがんだ認知
現時点で「性依存症」という精神医学上の診断名はなく、痴漢は「パラフィリア(性嗜好=しこう)障害」の中の「窃触(せっしょく)障害」に分類される。しかし、衝動的に繰り返すため、診療現場では通常、アルコール依存やニコチン依存と並ぶ依存症と捉える。
ただ、酒やたばこという物への依存と異なり、「痴漢は明確な被害者がいる点で、悪質な犯罪行為です」と原田教授は説明する。痴漢行為の原因には、幼少期の性的虐待被害などのトラウマがあると思われがちだが、「大半は問題のない家庭で育っていますが、父親が母親を蔑視したり、暴力を振るったりするような家庭環境で育ち、女性や性に対する認知のゆがみが根底にある人もいます」と話す。
加えて、ストレスに対し精神的に弱く、目先の欲求を満たし強い刺激を求めたがる性格の持ち主は、満員電車など人が密集した場所にいると性的欲求と背徳感が相まって、ストレスを処理する手段として痴漢行為に走る傾向がある。
▽治療で再犯率は4%未満に
前述のような傾向や衝動を持つ人に対して、原田教授は「痴漢は大半が満員電車内で起きます。通勤・通学手段を自転車や車に変えたり、混雑する時間帯を避けたりしましょう。ヘッドホンで音楽を聞くなどして気を紛らわすことも効果的です」とアドバイスする。
再犯を繰り返す人は、重度の性依存の可能性があるため、専門家がいる医療機関に相談してほしい。原田教授が臨床心理士、公認心理師としてカウンセリングを受け持っている榎本クリニック(東京都豊島区)では、数多くの研究で効果が認められた認知行動療法を中心にグループ治療を行っている。
海外では性的欲求が強い人には男性ホルモンを抑える抗アンドロゲン療法を併用するケースもある。週1回60分の治療を1年間継続した人の再犯率は4%未満という。それでも原田教授は「治療できる医療機関はまだ少ない。痴漢に対する罰則は必要ですが、繰り返す人は治療も必要。医療界も社会も性依存の存在を知ることが重要です」と訴える。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2020/10/22 06:00)