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正直さは、脳で分かる? 阿部修士特定准教授

◇子供の教育に大事なこと

 海原 不正直な人が正直な行動を取るようになるには何が必要なのですか?教育でしょうか。

 阿部 教育はもちろん重要な要素の一つかと思います。数年前にカナダで行われた3~7歳の子供を対象とした研究で、「ピノキオ」などの正直さに関するお話を読むことで正直さを促進されるかどうか調べたものがあります。結論は至ってシンプルで、「うそをつくと悪い結果になる」ことに焦点を当てたお話を読んでも、子供の正直さには影響を与えませんでした。一方で、「正直であれば良い結果になる」ことに焦点を当てたお話を読むことで、正直さが促進されることが確認されています。この研究の成果は、子供の教育という観点から、非常に重要だと思っています。
 人間の正直さにどのような要因が影響を与えるのかについては、これまで幾つも研究があります。特にダン・アリエリーという研究者による一連の研究が有名です。興味があれば、彼の「ずる―嘘とごまかしの行動経済学」という著書を手に取っていただくとよいと思います。ただし、大うそつきだった人が一晩で正直者になる、といったような劇的に効果のある方法は今のところないと思います。

◇午後はうそをつきやすい

 海原 不正直な人が一生懸命、前頭葉を使い正直に行動しようと努力すると疲れてストレスになる、なんていうことはあるのでしょうか。

 阿部 それはとても興味深い質問です。実際にデータを取ってみないと何とも言えないのですが、全くあり得ないとも言い切れません。というのも、少しロジックは異なりますが、「疲れているとうそをついてしまう」という研究があるのです。すごく頭を使って消耗するような課題をした後で、うそをついて利益を得ることができる状況に直面すると、ついズルをしてしまう、ということが実験的に確かめられています。
 さらに、午後の方がうそをつきやすくなる、というにわかには信じられないような研究も報告されています。私たちは日常生活を送る中でも、少なからず心身を消耗しています。この消耗によって、午前よりも午後の方が欲求を制御する意志の力が損なわれてしまい、結果としてズルをしたくなるのを我慢しにくくなる、という論旨です。人間が正直に行動しようとするには、十分にエネルギーがある状態ではないと、どうも誘惑に抗しにくくなるようです。(了)

【医学博士 海原純子/記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです】



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内容紹介
生きるとは意思決定の連続だ。本書は心理学と脳科学の最新の研究から、さまざまな具体的事例や実験の結果を紹介しながら、意思決定のメカニズムを探る。情動と理性という対立する「こころのはたらき」に注目する二重過程理論。マシュマロテスト、損失回避性、疲労、ブドウ糖、依存症などなど、意思決定のメカニズムと影響を与える要因を徹底的に検証。分かっているようで実はよく分からない、自分の「こころ」を知るための必読書。

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