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正直さは、脳で分かる? 阿部修士特定准教授

◇個人差がある

 海原 結果としておつりを返すことは同じでも、私と友人では個人差があり、メカニズムが違う。そうしたメカニズムを研究されているのですね。

 阿部 その通りです。意志の力に基づいた正直さは、脳の中でも背外側前頭前野と呼ばれる、理性的な思考や行動の制御を担う領域が関わっていますが、自然な正直さにはあまり関与していません。この違いの背景には、どうも報酬を期待する際の脳の活動の個人差があることが分かってきました。報酬を期待する際に、側坐核とよばれる領域の活動が高い人はうそをつく割合が高く、またそういう人が正直に振る舞う際には背外側前頭前野の活動が高かったのです。
一方、側坐核の活動が低い人はうそをつく割合が低く、正直に振る舞う際にはあまり背外側前頭前野の活動を必要としていませんでした。

  


◇コイントス実験で定量化

 海原 先生のご研究で正直さを定量化するコイントスの実験があります。正直さが定量化できるなんて素人には怖い感じがしますが。

 
阿部 コイントスの課題は非常にややこしいのですが、順を追って説明します。実験参加者はまず、コイントスの結果-コインが表か裏か-を予想します。予想に成功すると金銭による報酬が与えられますが、予想を失敗すると報酬が減ってしまいます。この課題の重要なポイントは、うそをつくことができない「機会なし」条件と、うそをつくことができる「機会あり」条件が設定されていることです。
 「機会なし」条件では、実験参加者は自分のコイントスの予測、つまり表が出るか裏が出るかの予測を、ボタン押しによって記録します。一方、「機会あり」条件では、実験参加者は表が出るか裏が出るかを、自分の心の中でのみ予測します。そしてコイントスの結果が呈示された後、実験参加者は自分の予測が正しかったかどうかを、ボタン押しによって報告します。「機会なし」条件では、実験参加者があらかじめ記録した予測に基づいて、正解・不正解が決定されます。しかし、「機会あり」条件では、コイントスの予測が成功したかどうかは自己申告に基づくため、ズルをしてうそをつくことが可能となります。つまり、「機会あり」条件において、予測の正答率が偶然の確率50%を超えている場合、例えば80%の正答率の人は、より多くの報酬を得るためにうそをついているとみなすことが可能なわけです。

 
この課題を行っている最中に、fMRI(磁気共鳴画像装置を使い脳内の血流の状態を観察する手法)で脳の画像を撮像することで、正直に答えるかそれともうそをつくかの意思決定に関わる脳領域の活動を探ることができる、というわけです。あくまでもこの課題は、ちょっとしたズルをしてお金を増やそう、という人間の行動を調べるためのもので、必ずしもその人の正直さの全てを反映しているわけではありません。この課題で多少うそをついたからといって、その人がいつでもどこでもうそをついているというわけではないですし、この課題で正答率が50%だからといっても、必ずしも正直者とは限りません。

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