Dr.純子のメディカルサロン

貧困脱却へアヒル貸し出し
~ベトナムでユニークな支援~ NPO法人の伊能まゆ代表に聞く

 ◇大学時代の旅行・留学で関わり

 海原 なぜベトナムで活動しようと思われたのでしょうか。

 伊能 大学では教職課程を履修していたので、国際関係論や地政学など幅広く学ぶ機会を得ました。また、在日韓国人の先生から朝鮮通信史を学んだことを機に、自分はアジアの一員である日本に生まれたにもかかわらず、他のアジア諸国や日本との関係について知らないことに気付き、夏休みなどを利用して旅に出て現地の人々と交流しながら見聞を広めました。ベトナムにも2週間ほど滞在し、北部から南部まで旅をしました。

日本人専門家によるドライマンゴー製造研修

日本人専門家によるドライマンゴー製造研修

 そして、大学3年生の時に日本、米国、アジアの一つの国との3カ国の関係を研究しようと思い、アジアに関する研究会などに通い始めました。その中でベトナムに留学できることを知り、すんなりと準備が整いました。当時、ベトナムを第1候補にしていたわけではなかったのですが、とんとんと話が進んだことを思うと、ご縁があったのかもしれません。

 海原 やりたいことが以前からはっきりしていたんですね。ベトナムの法人には何人いて、現地の方の割合はどのくらいですか。資金集めはどのようになさっているのですか。

 伊能 ベトナム事務所はベトナム人職員1人とインターン2人です。私以外は全てベトナムの方です。資金は主に日本の外務省や助成機関、企業などからご支援いただいています。

 ◇長期的視点や主体性の醸成に力点

 海原 現地の方とのコミュニケーションで苦労などがあれば教えてください。伊能さんのベトナム語はネーティブのように見事で驚きました。いつ勉強なさったんですか。

 伊能 ベトナムの方々は勤勉で働き者です。ただ、長期的な視野で計画を立てたり、協働したりすることが少し苦手です。私が行っている事業は全て持続的な地域発展を目的としており、そのために長期的な視点に立って物事を考え、計画を立てられる人材を育て、人々の協働を促しています。また、関わる地域の人々が日本のNGOのための活動ではなく、自分たちの活動であると理解し、主体的に行動しなければ、成功どころか実施すらできません。このような活動の目的や手法を事業地の皆さんに説明し、理解していただく他、日常的に地域の人々に伴走しながら話し合いを続け、相互理解を促進していくことが必要です。

ホーチミン市で販売されている有機ココナツを使ったチップス

ホーチミン市で販売されている有機ココナツを使ったチップス

 ベトナム語はこちらに来てから学びました。学校で基礎を教えていただきましたが、語学を磨くことができた場所はハノイの市場(いちば)と各地の農村でした。そして、先生は市場で生鮮食品を売っているお母さんたちと農家の皆さんでした。仕事を始めてからは、行政機関や農家の皆さんに伝えたり、話し合ったりしたいことがたくさん出てきたため、ベトナム語が上達しました。やはり「話したい」「伝えたい」という気持ちは語学を上達させるために大事だと実感しました。

 一方で、日本語の表現の豊かさと語彙(ごい)の多さに改めて気付き、それをベトナム語で表現する難しさも学びました。言語はその地域の歴史や文化、暮らしに根差しているものなので、日本とベトナムの人々の発想や文化の違いについても学ぶ機会となりました。

 ◇健康・環境に良い農産品作りへ協働

 海原 日本にいる方がまゆさんの手伝いをしたい場合はどうすればいいですか。

 伊能 ありがとうございます。もし、私どもの活動にご賛同・ご協力いただけるようでしたら、ホームページ(Seed to Table〜ひと・しぜん・くらしつながる〜 (seed-to-table.org))またはフェイスブック(Seed to Table VN | Hanoi | Facebook)よりご連絡を頂ければ幸いです。よろしくお願いいたします。

 海原 楽しいことや大変なことなどいろいろありそうですね。

学校菜園で病害虫の状況を調べる高校生たち

学校菜園で病害虫の状況を調べる高校生たち

 伊能 農家の皆さんとの「涙あり笑いあり」の有機農業珍道中も楽しいですが、やはり中学生や高校生と一緒に学校菜園に取り組む活動が楽しいです。また、有機農産物や加工品など、ゼロから作り上げていく過程は大変ですが、やりがいがあります。一つの商品として完成し、農家や加工グループの皆さんがスーパーの棚に商品が並んだところを見て誇りを持てるようになったり、消費者の皆さんが喜んで購入してくれたりする姿を見ると、とてもうれしいです。

 海原 伊能さんたちが作った無添加のドライマンゴーを頂きました。これから販売予定だそうですが、口に含むといい香りがいっぱいに広がりました。

 伊能 ありがとうございます。マンゴーなどの果樹は有機栽培が難しいので、減農薬栽培に取り組み、段階的に有機栽培に移行していくことを目指しています。加工品については、事業地の特産である農産物を生かし、添加物を加えず、シンプルな商品を作っていきたいと思います。現地の皆さんと共に健康にも環境にも良い商品開発に取り組んでいくつもりです。(了)

 伊能 まゆ(いのう・まゆ) 1997年3月に明治大学文学部卒業後、渡越。日本のNGOが実施していた事業や学術調査に翻訳・通訳者、調査者として参加し、ベトナム北部から南部にかけ農村を歩く機会を得る。2003年3月に一橋大学大学院社会学研究科博士前期課程を修了後、日本国際ボランティアセンター(JVC)ベトナム事務所に赴任。2005年6月から2009年3月までベトナム事務所代表を務める。2009年7月に任意団体Seed to Table~ひと・しぜん・くらしつながる~を設立。2010年4月に特定非営利活動法人となり、代表に就任。

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