こちら診察室 「無塩無糖」の世界

「無塩無糖」と高血圧・糖尿病
~2大全身血管病を予防する~ 第3回

 全身の血管に障害を与え、重要臓器(心臓・脳・腎臓など)の病気になる2大全身血管病があります。それは人類を悩ませている高血圧糖尿病です。高血圧は高い血圧が、糖尿病は高い血糖が続く事で全身の血管にダメージを与え動脈硬化になり、心臓では狭心症・心筋梗塞、脳では脳出血脳梗塞、腎臓では腎機能低下・人工透析になります。

「無塩無糖」を始める人には蒸し料理がお勧め

「無塩無糖」を始める人には蒸し料理がお勧め

 ◇「原因療法」と「対症療法」

 病気の治療には二通りあります。それは病気を根本的に治す「原因療法」と、原因を治すのではなく症状や体調を良くする「対症療法」です。病気の治療は原因療法がお勧めです。原因療法がない場合は仕方なく、対症療法に頼ります。

 全ての病気に原因療法があるのでしょうか? 原因療法がない病気がたくさんあります。例えば、風邪です。原因となる風邪ウイルスを撃退する原因療法はなく、治療は風邪による症状(熱・痛み・せきなど)を軽くする薬(解熱・鎮痛・せき止め)を飲む対症療法です。

 さて高血圧ではどうでしょうか?ありがたいことに原因が分かっています。食塩の取り過ぎです。原因療法は「無塩・減塩」になります。原因療法には根本的に治す以外にもう一つ良い点があります。それは予防できることです。「無塩・減塩」をすれば、高血圧になりません。降圧薬は対症療法であり予防はできず、高血圧になってから使用します。

荒川規矩男氏、大石充氏、筆者

荒川規矩男氏、大石充氏、筆者 

 ◇衝撃の出会い

 今から8年前、「無糖無塩」を始めてから17年が経過した私にとって、高血圧診療を見直す衝撃の出会いがありました。5月に鹿児島県医師会館で開催された高血圧市民公開講座での荒川規矩男先生との出会いです。鹿児島大学医学部心臓血管・高血圧内科学の大石充教授から私に「高血圧市民公開講座で荒川先生が講演されるが、追加発言として『無塩生活17年』を話して下さい」という依頼があったのがきっかけでした。

 私が「無塩生活17年で血圧100/60mmHg(ミリメートル・エイチ・ジー)」という題で講演したところ、荒川先生が「中尾先生は無塩食ですか。まさか日本人に無塩食の人がいるとは思わなかった。日本食で無塩食を作るのは困難だと思い、減塩を勧めてきた。中尾先生、今後、無塩食を勧めてください」と言われました。

 荒川先生は高血圧に関連するヒトアンギオテンシンを世界で最初に単離(分離)・同定した高名な高血圧学者であり、世界高血圧学会の理事長をされ、高血圧薬であるACE阻害薬やARBなどRA(レニン・アルドステロン)系抑制剤の開発において主導的役割を果たされた先生です。

 講演で荒川先生は「本態性高血圧の元凶は食塩であり、原因療法は無塩食のみ」と話されました。「原因療法は無塩食のみ」と初めて聞いた私は身震いするような衝撃を受けました。

 ◇唯一の原因療法

 なぜかと言うと、循環器内科専門医である私がそれまで高血圧の原因療法を考えたことがなく、無塩食が原因療法であることを知らなかったからです。次に、患者さんに減塩を勧めてはいたのですが、実際の診療の場で、1日の食塩摂取量6グラム未満の減塩ができているかどうかという検査をしていませんでした。私は、自分自身が血圧を意識せずに行ってきた無塩食が高血圧の唯一の原因療法であることにびっくりしました。

 循環器内科医として主に虚血性心疾患や心筋疾患を学び、診療してきましたが、荒川先生の講演を拝聴してから高血圧を深く知りたくなり、69歳で日本高血圧学会に入会し、荒川先生に弟子入りしました。

 教えていただいた結果、本態性高血圧は食塩が原因の食塩高血圧であることと、高血圧薬を内服しても減塩しなければ血圧が130/80mmHg以下になりにくいことを知りました。

 ◇食塩高血圧外来のスタート

 3年前から食塩高血圧専門外来を始めました。原発性アルドステロン症や腎動脈狭窄(きょうさく)などの2次性高血圧が否定された本態性高血圧を「食塩高血圧です」と、患者さんに説明するようにしました。食塩高血圧の患者さんの治療については、高血圧薬による対症療法より減塩・無塩による原因療法を勧めています。その結果、積極的に減塩・無塩に取り組む患者さんが増えてきました。

 ◇基本となる「蒸し料理」

 無塩無糖を始める方にお勧めは「蒸し料理」です。蒸し料理は塩も砂糖も使わない料理だからです。最初は味が薄く食欲が湧かないかもしれません。その場合は、ポン酢やかつお節をかけて食べます。薄味に味覚が慣れてくるとポン酢の使用量も次第に減り、いつかポン酢なしでも食材の味が分かるようになります。蒸すと、食材のそれぞれの甘さが出ます。さらに蒸し料理の良い点は、肉類(主菜として)・野菜(副菜として)・スープの3品が一度に出来ることです。蒸し器の下にある水には肉や野菜の栄養分が溶け出しており体に優しいスープです。多めに作って冷蔵庫に保存し、卵とじやクリームスープの具材に利用できます。ぜひお試しください。(了)


 中尾正一郎(なかお・しょういちろう) 日本循環器学会専門医・日本内科学会認定内科医。1973年、鹿児島大学医学部卒業。米ハーバード大学医学部(循環器内科)、米マウント・サイナイ大学医学部(臨床遺伝学)留学を経て、95年、新しい疾患「心ファブリー病」を医学雑誌「NEJM」で日本から世界に発信。99年、鹿児島県立鹿屋医療センター院長に就任し、日本初の2カ所主治医制による地域医療「鹿屋方式」を構築。NHK「クローズアップ現代」で紹介された。「高血圧専門外来」で対症療法(高血圧薬内服)よりも、原因療法(減塩・無塩)を勧めている。

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