「医」の最前線 AIと医療が出合うとき

開発途上国の医療を助ける新技術
~医療格差是正へのAI利用~ (岡本将輝・ハーバード大学医学部講師)【第15回】

 医療技術の発展は目覚ましく、日々更新・追加される科学的エビデンスを医療者は適切に理解し、日々の実臨床に反映していくことが求められている。研究者や開発者の探究心と医療者の現場努力、政策レベルでの制度・環境整備などを通して医療水準は向上を続けるが、この程度はあらゆる国・地域で一律なわけではない。経済的に不安定で、社会的・技術的発展が十分に得られていない、いわゆる「開発途上国」においては、貧困を背景とした劣悪な医療事情が現代においても厳然としてある。

 開発途上国で主として問題となるのは、医療者や専門施設、医療機器を含む医療リソースの不足、医療サービスへのアクセス不良、不十分な保険制度に基づく自己負担割合の大きい高額な医療費、高い感染症発生率、低い健康意識などが挙げられる。これらの諸問題を抜本的に解決し、医療格差を是正することについては、大規模な投資を伴う介入をもってしても短期的な達成は容易ではない。こういった中、AIを含む先端技術の活用によって、開発途上国の医療事情を足元から即時的に変革しようとする動きがある。

病院で出産を待つ妊婦ら(2012年、アフリカ・タンザニア)

病院で出産を待つ妊婦ら(2012年、アフリカ・タンザニア)

  ◇産科医療の質的向上を支援

 高品質な産科医療を適時的に提供するためには、妊娠週数の正確な推定が欠かせない。一方、超音波検査装置をはじめとした妊娠管理に必要となる既存医療機器のコストは高く、訓練を受けたソノグラファーの確保も必要となるため、低資源環境での実施は制限されている。この状況に対処するため、スマートフォンやタブレット端末に接続し、バッテリー駆動で利用できる簡易的な超音波検査装置とディープラーニングベースの画像処理アルゴリズムを活用し、超音波検査手技に関する専門的訓練を経ていない者でも高精度な妊娠週数の推定を行えるようにしようとするチームがある。

 NEJM Evidenceに2022年掲載された研究論文では、米ノースカロライナ州とアフリカ南部のザンビアにおいて、4695人の妊婦から取得した超音波画像データにより妊娠週数を推定するニューラルネットワークをトレーニングしている(※1)。その結果、AIモデルはソノグラファーが算出する妊娠週数と大きな差なく推定することができるようになったほか、廉価なバッテリー駆動式装置を用い、超音波検査の専門訓練を受けたことのないザンビアの医療従事者(看護師や助産師)が取得した検査画像においても、同程度に有効な推定精度を示していた。

 現在の一般的な診断アプローチからは逸脱しているために、さらなる追加検証が必要であり、直ちに現行の医療フローに統合されるわけではないものの、特に低資源国における産科医療の格差是正に資する可能性のある有望な事例となる。

 結核の撲滅に向けて

 世界保健機関(WHO)によると、過去30年間で結核死亡者数は減少傾向にある一方、新型コロナウイルス感染症の拡大前までは、結核は単一の感染症による死亡原因の第1位でもあった(※2)。また、結核死亡者の大多数が開発途上国で見られるなど、この感染症による疾病負荷は地域的な偏りが大きいことも知られている。

 米ジョージア大学などの研究チームは、結核治療中の患者におけるビデオモニタリングによって、服薬アドヒアランスを自動確認するディープラーニングモデルを構築している(※3)。結核のまん延を防止する観点からは「確実な抗結核薬の内服」が必要になるため、直接服薬確認療法(DOTS)と呼ばれるアプローチが推奨される。これは、患者が医療者の眼前で治療薬の内服を行うというもので、確実な服薬管理には有効である一方、相応の人的資源が必要となる。近年はビデオモニタリングによってDOTSを代替するVDOTも利用されるが、医療者の手間が必要となることに変わりはなく、技術によるアプローチの改善が求められていた。

 研究チームは、497本の服薬ビデオデータ(405本は服薬あり、92本は服薬なし)に基づき、複数のディープラーニングモデルのトレーニングを行った。中でも3D ResNetが最も高い識別精度を示し、臨床利用が可能な水準であることが確認されている。著者らは、結核対策におけるこの種の「一見すると地味で退屈な作業」を可能な範囲でAIに引き渡すことにより、リソースの最適化と作業の質的向上を図ることができ、結果として低資源環境における公衆衛生の向上に貢献する可能性を強調している。

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