治療・予防

重病を疑い、とらわれる
~病気不安症(東京慈恵会医科大学付属病院 舘野歩准教授)~

 明らかな身体症状がなく、医療機関で検査を受けても異常が認められないのに、がんや心臓病など命に関わる重病にかかっているのではないかと不安に陥るのが「病気不安症」。中には日常生活に支障を来すケースもあるという。東京慈恵会医科大学付属病院精神神経科(東京都港区)の舘野歩准教授に聞いた。

身体的異常がなくても病気への不安が解消されない

身体的異常がなくても病気への不安が解消されない

 ◇病気へのとらわれ

 かつては心気症とも呼ばれた精神疾患の一つ。医療機関で診察や検査を受けても身体的な異常が認められないものの、がんや心臓病といった重篤な病気なのではないかという考えにとらわれてしまうのが特徴だ。

 「女性であれば更年期障害、高齢者であれば認知症といった病気にかかっているのではないかと心配になり、繰り返し検査を受け、異常がないと言われても納得できずに医療機関を転々とする『ドクターショッピング』をしてしまう人もいます」

 米国の精神疾患の診断・統計マニュアルDSM5によると、有病率は1.3~10%程度で性差はなく、特に青年早期以降の成人で見られるという。明確な原因は分かっていないが、「プライドが高く、きちょうめんな半面、内向的だったり心配性だったりという性格の人に多い傾向が見られます」。

 ◇健康でありたい気持ち

 身体的な病気だという考えにとらわれているため、自ら精神的な病を疑うケースは少ないという。「何度か検査を受けても異常がなく、主治医やかかりつけ医が精神疾患を疑って私たち精神科に紹介されるケースが大半です」

 本当に身体的な病気がないかを慎重に精査しつつ、脳の病気やうつ病など他の精神疾患がないかを丁寧に調べた上で病気不安症と診断する。ただし、診断名をストレートに伝えるのではなく、「患者本人の病気へのとらわれを、健康を第一に考えている証拠と受け止め、患者本人にも自覚してもらうことで信頼関係を築くことから治療を始めます」。

 不安を軽減する目的で抗うつ薬を使用する場合もあるが、認知行動療法や森田療法といった精神療法が主体となる。認知行動療法は自らの思考や行動を認識して客観的に捉えられるようにするのに対し、森田療法は病気に対するとらわれから脱してあるがままの自分を受け入れられるように支援するのが特徴だ。

 「病気不安症は脳に異常があったり、性格の問題だったりするわけではなく、より健康的に生きたいという気持ちの表れだと思います」。検査で異常がないにもかかわらず不安が解消されない場合は、一度精神科を受診してみるとよいかもしれない。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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