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寄生虫で難病を治療=18年から安全性試験開始

 ◇健康な男性で2カ月実施

臨床研究で使用される豚鞭虫の成虫(東京慈恵会医科大学提供)
 同大が行う最初の試験は、健康な成人男性12人が対象。本人には告げないまま、9人に豚鞭虫の卵を投与し、残りの3人にはプラセボ剤(偽薬)を投与する。2カ月にわたり、採血や便検査、問診を定期的に実施して安全性を確認する段取りだ。
 課題もある。豚鞭虫は人体内で活動を続けられないため、服用後約2週間程度で効果が薄れてしまうと、嘉糠教授は予測する。また、患者によって効果の差が大きくなる可能性もある。「腸内に繁殖している、細菌間の生態系に相当するフローラに影響を与えることも、免疫の過剰活動を抑制する上で重要だ。欧米人に比べてフローラが異なる日本人で、どこまで効果が出るかは大きな研究課題だ」と指摘する。
 人の腸内で長期生存可能な寄生虫であれば、腸内の細菌フローラへの影響は大きく、かつ長期にわたることが予測される。「豚鞭虫を使った場合より、免疫系を安定させる働きも強く、かつ持続的になることが期待できる」と嘉糠教授は言う。寄生された人間の健康への影響に加え、体外に排出されて別の人に寄生してしまう危険もあるため、当面は豚鞭虫を使っての研究を続ける方針だ。

 ◇患者の負担軽減にも期待

服用する豚鞭虫の卵。腸内で成虫になるが繁殖はしないという(東京慈恵会医科大学提供)
 この治療法の利点としては、期待される治療効果のほか、自己免疫疾患などの患者への負担が大きく軽減されることが上げられる。重症化した自己免疫疾患では、特定の臓器に症状が起きていても全身の免疫活動を弱める治療が必要とされている。この結果、さまざまな感染症にかかりやすくなったりするなどの弊害が生じる。さらに、免疫抑制剤やステロイド剤などの治療薬は高価だったり、副作用が多かったりするために経済面や身体面での患者の負担は決して軽くはない。
 嘉糠教授は「今回の治療法が実用化されれば、より負担の少ない治療が提供できるようになる。現在、寄生虫が残っている国々では、先進国で取られたような過度の駆除政策が不要になり、その分より大事な問題に資金や人員を投入できるようになるだろう」と言う。(喜多壮太郎・鈴木豊)


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