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寄生虫で難病を治療=18年から安全性試験開始

 免疫活動は、体外から侵入した有害な細菌などを排除する重要な働きだ。生きていく上で欠かせない役割を果たす一方で、過剰な反応は潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患や皮膚病の一つである乾癬(かんせん)など「自己免疫疾患」といわれる病気を引き起こす。これらの病気の多くは完治に至る治療法が発見されておらず、患者は症状を抑えるために薬による治療を受け続けるしかない。
 こうした難病の治療法の一つとして、東京慈恵会医科大学(東京都港区)で患者の腸に寄生虫の卵を入れることで免疫活動を安定させる研究が進められている。発想の転換とも言える。2018年には、人への影響がないと考えられている「豚鞭虫(ぶたべんちゅう)」という寄生虫を使い、安全性の確認を目指した最初の臨床研究が開始される。

 ◇きれい過ぎる腸内環境

卵から出てくる豚鞭虫。この状態で腸内フローラを通して免疫活動の安定化に寄与するとされる(東京慈恵会医科大学提供)
 なぜ、寄生虫なのか。かつて日本は、寄生虫の完全な駆除を目指して努力した。ただ最近では、過剰なまでに腸を含めた体内外の環境を「きれい」にすることはかえって免疫活動の熟成を妨げ、アレルギー疾患などの病気の原因となり、マイナスになるのではないか、という指摘もある。同大熱帯医学講座の嘉糠洋陸教授は「寄生虫などがおらず、生息する細菌の種類が少ない、生物学的に『きれい過ぎる』腸内環境は良くないということは、感覚的にかなりの人々が理解しているのではないか」と話す。
 嘉糠教授は「まず、体内に鞭虫が短期間生息しても寄生された人に健康面で悪影響が出ないことを確認する。その上で、同様の短期間の寄生で自己免疫疾患の症状が改善することを確かめていきたい」と、臨床研究の狙いを説明する。既に、同大付属病院での患者数が多いクローン病潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患(IBD)と乾癬を対象に、消化器・肝臓内科や皮膚科の協力を得て臨床研究に向けた準備が進行中だ。

 ◇免疫安定化の研究報告

東京慈恵会医科大学の嘉糠洋陸教授
 嘉糠教授が寄生虫に注目したのは、アジアやアフリカなど寄生虫症が広がっている発展途上国では、ぜんそくアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患の患者が少ないことだった。アレルギー疾患や、より激しい免疫の過剰反応が引き起こす自己免疫疾患の治療に、寄生虫を使う研究は21世紀に入ってから各国で行われ、一部の国では臨床試験も実施されている。この結果、寄生された人の安全性や実験動物での免疫安定化は確認されたという研究が多く報告されている。
 ただ、治療効果についてはさまざまな結果が出ており、効果が確定されたとは言い難い一面もある。それでも、米国やドイツでは医師の処方の下に免疫反応の安定化のために使用され、タイでは栄養補助食品として市販されている。日本では、豚鞭虫が家畜伝染病予防法で病原体と規定されており、輸入には農林水産省の許可が必要だ。今回の研究でも、農林水産省と厚生労働省の許可を得て輸入している。
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