Dr.純子のメディカルサロン

心を守る瞑想トレーニング

 以前にもご紹介した日本ポジティブサイコロジー医学会(大野裕理事長)は、医学者だけでなく物理学、心理学、工学などさまざまな分野の研究者が集まり、人が幸せに生きることについて研究している学会です。

 この学会では、理事や評議員が毎月、海外の研究論文から興味深い先端研究を選んで要約し、会員向けに紹介しています。先日そこに注目すべき論文がありましたので、学会の許可を得て特別に内容をご紹介します。

 その論文は、米エモリー大のJennifer S. Mascaroらがまとめた「Meditation buffers medical student compassion from the deleterious effects of depression」〔「瞑想(めいそう)は医学生の思いやりの心をうつの有害作用から守る」、出典は Journal of Positive Psychology, 2018. Vol.13(2): 133-142 〕で、論文の要約は東京医療保健大医療保健学部看護学科の秋山美紀准教授が担当されました。

 患者さんの痛みやつらさに共感したり、思いやりを持って接したりすることは医学生にとって大切なことなのですが、その気持ちが強すぎると自分自身の気持ちが落ち込んでしまう、というものです。

 この論文では、医学部2年生にチベット仏教徒の瞑想に由来するトレーニングをして思いやりの心を育てつつ、孤独感やうつを軽減する治療介入を行い、トレーニングをしなかったグループとの比較で瞑想の有効性を確認しました。トレーニングをすることで、自分自身を思いやり、自らにエネルギーを補給できるとしています。

 私は常々、思いやりのある看護師さんが疲れ切って体調を崩したり、燃え尽きたりしてしまうのが残念でたまらないと感じていたのですが、こうした瞑想を応用したトレーニングは今後期待できると思いました。医学生だけでなく看護師や保健師、介護福祉士の皆さんにとっても自分の心を守るためのスキルになればといいと思います。

 論文をご紹介くださった秋山先生は、看護職や介護職の思いやりに関する研究をされていて、質の高い医療や看護、介護を目指すためには医療従事者自身のセルフコンパッションが必要ではないかとお考えです。

 最近、「マインドフルネス」が話題になっています。日々の生活の中でほんの少しの時間、例えば私の場合は起床直後や仕事の合間の数分間に、何もしない時間、つまりスマホも見ないし本や雑誌も読まない時間をつくり、窓から空を見て静かに呼吸するだけのひとときをつくります。

 それは誰とも話さない、ちょっと一人になる時間です。ほんの一瞬ですが、自分の足が地についていることを感じ(当たり前のことなのですが、仕事をしているとそんな意識はありませんね)、体の隅々に酸素が行き渡るのを感じる時間です。「なーんだ、そんなことか」と思われるかもしれませんが、そんなひとときのミニ瞑想は自分の心をいたわる時間になるものです。

(文 海原純子)

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