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朝ドラのヒロインは「何者かになりたい女子」
コラムニスト・矢部万紀子さん

 海原 医療現場で患者さんの話を聞いていても窮屈度が上がっている感じがします。でも朝ドラのヒロインが「何者かになりたい女子」という視点はなかったですね。いつも元気で前向き過ぎるヒロインは現実離れしているような気がしていたんですが(笑)


 矢部 全部で11作の朝ドラを論じました。一番古くが2007年の「ちりとてちん」。ヒロインは落語家になるのですが、朝ドラを「お仕事ドラマ」として見た最初の作品です。最初から落語家になりたいのでなく、「何かになりたい。でも何になりたいか分からない」女子が、落語家という道を見つけていく話で、大好きだったのです。

 高校の頃の自分、働き始めた頃……自分に重なりました。それなのに、なんと妊娠したヒロインが最終回の前日に落語家を引退すると決めるという、とんでもない結末が待っていました。ほんと、がっかりでした。でも最後の2日間に目をつぶれば、とても良い作品なので、がっかりさと良さ、両方を書きました。

 それを序章に、「ゲゲゲの女房」(10年)をトップに置きました。この作品は、ハンサムな向井理さんが衝撃のデビューをして夢中で見たのですが(笑)、それ以上の意味があります。ここから放送時間が15分前倒しになり、午前8時開始になったのです。働く女子が増えたことと無関係でない時間変更だと思います。

 他には「カーネーション」(11年)、「あまちゃん」(13年)、「ひよっこ」(17年)が大好きな作品で、熱く論じたのですが、ダメだなあと思う作品のことも書きました。朝ドラは今や平均視聴率が20%を超えるテレビドラマ界のエリートです。たくさんの人が見るせっかくの機会なのに、なぜだろう、もっとがんばればよいのになあと思うので、これまた熱く論じました。「まれ」(15年)、「べっぴんさん」(16年)がそちらの組で、「留飲を下げた」という反応をたくさんもらいました。


 海原 「とんでもない結末」になってしまったドラマの続きで、「子育てをしながら落語のスキルを磨き、子育てを終えたところで復帰」なんていう展開があれば納得かも。朝ドラの魅力の根源は何でしょうか。


 矢部 朝ドラのヒロインのデフォルトは何?と聞かれたら、私は「おてんば」と答えます。朝ドラは1961年に始まったのですが、66年の「おはなはん」でブレークしました。その第1回が今もNHKのサイトで見られます。

 振り袖を着たおはなが、木の上にいます。お見合い相手をいち早く見ようと庭の木に登ったのです。木登りは男子の専売特許かもしれませんが、おはなは敢然と登るのです。結婚相手を見たい、というのは、自分のことは自分で決めたいということだと思います。その象徴としての木登りです。

 「おはなはん」の大ヒット以降、ヒロインのデフォルトは、枠にはめられることなく、自分のことは自分で決めたい「おてんば」になったと私は思っています。 朝ドラはよく「女の一代記」であると言われますが、私は「おてんばの奮闘記」だととらえています。そこから私が読み取ったメッセージは、「堂々とせよ」でした。「成功せよ」でないところが、肝です。

 堂々とすること、自分が自分でいること。その先に成功があるかどうか分かりません。でも、「堂々とする」ことが、成功への一番の近道ではないかというのが、35年近く会社員をしていた私の実感でもあります。

 ところがこの10年、リーマンショック以降だと思うのですが、日本経済全体が停滞する中、「堂々と」が組織内で尊重されず、それよりも上の人への気遣いみたいなことが要求されるようになったと、これも私が働く中での実感でした。「忖度(そんたく)」という言葉が昨年来クローズアップされていますが、それは霞が関、永田町だけのものではないと思い、これも会社員人生にピリオドを打つことにした理由の一つです。

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