一流のレジリエンス~回復力~Dr.純子のメディカルサロン

朝ドラのヒロインは「何者かになりたい女子」
コラムニスト・矢部万紀子さん

 「朝ドラには働く女子の本音が詰まってる」(ちくま新書)の著者、矢部万紀子さんは元朝日新聞記者です。「AERA」創刊に携わり、「週刊朝日」で担当した松本人志さんの「遺書」はミリオンセラーを記録しました。シニア雑誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長の時代には、外部の意見を取り入れるための会議を設置。そのメンバーだった私や、脚本家の内館牧子さん、エッセイストの山本ふみこさんによる議論は毎回、「働く女子の本音委員会」といった趣でした。

 現在はコラムニストとして活躍する矢部さんに、「働く女子のレジリエンス」をテーマにお話を伺いました。


 海原 組織に属しつつ成功を収める(ご本人がそう感じているかどうかは分かりませんが)までの困難、そしてあえて組織を飛び出す決断をするに至った経緯をお聞かせください。


 矢部 拙著「朝ドラには働く女子の本音が詰まってる」(ちくま新書)を読んだ友人から、「相当、会社が不満だったんだね」と言われました。

 NHKの連続テレビ小説、通称「朝ドラ」を視聴者目線で書いた本ですが、ヒロインを「何者かになりたい女子」と捉え、対峙(たいじ)するものを「おっさんがルールを決めている社会」と位置付けて論じました。おっさん社会の典型が「会社」というものですから、自ずとそれへの批判が浮かび上がってくる本になっているのだと思います。

 熱心に朝ドラを見るようになったのは、この10年ほどです。私が、会社にいることの息苦しさを強く感じるようになった時期と重なっています。私と勤めていた会社との関係が変わったという面もあります。管理職度が上がり、「好きなことをする」では済まなくなりました。でもそれだけではないと、本を書きながら思いました。

 「一億総活躍」と言われ、「多様な働き方」が推奨されています。そういうことが自由さにつながらず、むしろ窮屈度が上がったのがこの10年ほどではなかったかと思うのです。上がった窮屈度を言葉にするなら、「効率よく結果を出せ」ではないでしょうか。そして「勝ち組」と「負け組」がいるのが当たり前で、その結果については「自己責任だからしょうがないよね」という世の中になりました。そんな空気が社会を覆い、私の勤めていた会社にも影響を与え、なんとも言えない「違和感」が私の中でも強くなりました。

 結果として朝日新聞を辞めて転職をし、移った会社も辞め、会社員人生に終止符を打つことになりました。その過程で私の「朝ドラ好き」に拍車が掛かったと思います。社会の変化を背景に、会社員をしていたからこそ得た視点で、朝ドラを書きました。

矢部万紀子さん

 海原 医療現場で患者さんの話を聞いていても窮屈度が上がっている感じがします。でも朝ドラのヒロインが「何者かになりたい女子」という視点はなかったですね。いつも元気で前向き過ぎるヒロインは現実離れしているような気がしていたんですが(笑)


 矢部 全部で11作の朝ドラを論じました。一番古くが2007年の「ちりとてちん」。ヒロインは落語家になるのですが、朝ドラを「お仕事ドラマ」として見た最初の作品です。最初から落語家になりたいのでなく、「何かになりたい。でも何になりたいか分からない」女子が、落語家という道を見つけていく話で、大好きだったのです。

 高校の頃の自分、働き始めた頃……自分に重なりました。それなのに、なんと妊娠したヒロインが最終回の前日に落語家を引退すると決めるという、とんでもない結末が待っていました。ほんと、がっかりでした。でも最後の2日間に目をつぶれば、とても良い作品なので、がっかりさと良さ、両方を書きました。

 それを序章に、「ゲゲゲの女房」(10年)をトップに置きました。この作品は、ハンサムな向井理さんが衝撃のデビューをして夢中で見たのですが(笑)、それ以上の意味があります。ここから放送時間が15分前倒しになり、午前8時開始になったのです。働く女子が増えたことと無関係でない時間変更だと思います。

 他には「カーネーション」(11年)、「あまちゃん」(13年)、「ひよっこ」(17年)が大好きな作品で、熱く論じたのですが、ダメだなあと思う作品のことも書きました。朝ドラは今や平均視聴率が20%を超えるテレビドラマ界のエリートです。たくさんの人が見るせっかくの機会なのに、なぜだろう、もっとがんばればよいのになあと思うので、これまた熱く論じました。「まれ」(15年)、「べっぴんさん」(16年)がそちらの組で、「留飲を下げた」という反応をたくさんもらいました。


 海原 「とんでもない結末」になってしまったドラマの続きで、「子育てをしながら落語のスキルを磨き、子育てを終えたところで復帰」なんていう展開があれば納得かも。朝ドラの魅力の根源は何でしょうか。


 矢部 朝ドラのヒロインのデフォルトは何?と聞かれたら、私は「おてんば」と答えます。朝ドラは1961年に始まったのですが、66年の「おはなはん」でブレークしました。その第1回が今もNHKのサイトで見られます。

 振り袖を着たおはなが、木の上にいます。お見合い相手をいち早く見ようと庭の木に登ったのです。木登りは男子の専売特許かもしれませんが、おはなは敢然と登るのです。結婚相手を見たい、というのは、自分のことは自分で決めたいということだと思います。その象徴としての木登りです。

 「おはなはん」の大ヒット以降、ヒロインのデフォルトは、枠にはめられることなく、自分のことは自分で決めたい「おてんば」になったと私は思っています。 朝ドラはよく「女の一代記」であると言われますが、私は「おてんばの奮闘記」だととらえています。そこから私が読み取ったメッセージは、「堂々とせよ」でした。「成功せよ」でないところが、肝です。

 堂々とすること、自分が自分でいること。その先に成功があるかどうか分かりません。でも、「堂々とする」ことが、成功への一番の近道ではないかというのが、35年近く会社員をしていた私の実感でもあります。

 ところがこの10年、リーマンショック以降だと思うのですが、日本経済全体が停滞する中、「堂々と」が組織内で尊重されず、それよりも上の人への気遣いみたいなことが要求されるようになったと、これも私が働く中での実感でした。「忖度(そんたく)」という言葉が昨年来クローズアップされていますが、それは霞が関、永田町だけのものではないと思い、これも会社員人生にピリオドを打つことにした理由の一つです。

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