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望まぬ蘇生は中止できるか?
自宅でみとる難しさ

 在宅医療の役割が大きくなると同時に、「自宅で最後を迎えたい」と考える人が増えている。心肺停止状態に陥ったとき、本人が望まない緊急要請をしてしまうケースも多い。その場合、蘇生措置や搬送を中止することは可能なのか。こんな重い課題をテーマにしたシンポジウムが7月、横浜市で開かれ、さまざまな課題が浮かび上がった。

 ◇人生の最後を自分らしく

 河本クリニック(横浜市)院長の河本和行氏は訪問診療医の立場から講演し、「訪問診療の対象となるのは『通院できない状況』ではない。通院するのに介護が必要で、通院行為自体が患者とその家族にとって大きな負担となる困難な状況を指す」と説明した。

東京都立墨東病院(墨田区)の救命救急センター
 在宅医療の目的は「病院医療」から「地域での医療」へ、「治す医療」から「支える医療」へと転換していく中で、「住み慣れた自分の家で人生の最後まで自分らしく過ごすことだ」と言う。「人生という仕事が終わる時は家に帰ろう」という言葉に置き換えてもよい。

 自宅で最後を迎えると決め周囲に伝えていても、緊急要請をしてしまう。緊急要請をするのは、普段から主として介護に携わる家族やヘルパー、電話で相談を受けたケアマネジャー、主介護者以外の家族や親族らだ。「想定されていない事態が生じ、緊急事態や容体の急変だと思ってしまう」と河本氏は指摘する。

 「心肺停止でも自宅でみとると決めている場合は『緊急』や『急変』ではなく、『状態が変化した』にすぎない」。ただ、「状態の変化」と分かっていても、実際にそれを受け止めることは難しい上に、「最も大きな問題は、本人の意思が確認できないことだ」と述べた。

 ◇119番イコール蘇生希望

 患者が緊急病院に搬送されながら、家族らが「心肺蘇生をしないでください」とお願いすることはできるのか―。済生会横浜市東部病院救命救急センター長の山崎元靖氏は、ドキリとするテーマを掲げた。

 心肺停止の患者が救急車で運ばれて来るという通報を受けると、医師や看護師、放射線科医師、薬剤師が約10分で準備を整える。患者が到着次第、心臓マッサージ(胸骨圧迫)や気管挿入などの処置を実施する。救急センターに搬送される間、救急車内でも絶え間なく心臓マッサージが行われる。

 「社会死以外は全力で蘇生を行う。心肺蘇生は分単位で効果が低下する。まず蘇生を開始してから考える。そもそも119番通報をしたことは家族らが蘇生を望んでいる、と理解している」

 山崎氏は、次のような現場での問題点を挙げる。まず、患者本人の意思を直接確認できない。次に、現場に居合わせない家族がいる状況で、蘇生を望まないのは家族の総意なのか。さらに、救急医のほとんどは家族らと初対面だ。本当に蘇生処置を中止してよいのか。山崎氏は「救命を責務とする救急医が初対面の家族らに対し、5分程度の極めて短い時間で決断を迫ることになる」と、その難しさに触れる。その上で「蘇生を希望しないのであれば、119番通報しないのがベストだ」と結んだ。

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