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(第9回)地域医療支援病院に求められる変革
機能分化から働き方改革まで

 日本には約8,500の病院がある。各病院の医療機能、病床規模はさまざまで大学病院もあれば、総合病院、リハビリテーション病院もある。病院は地域に点在するが、国は団塊世代が後期高齢者となる2025年にむけて、必要な機能を地域で最適化する施策を進めている。医療機関の経営環境が厳しくなる中、各病院は今後どのような機能を担っていくのか改めて検討し、医療の仕組みを地域全体で整備することが求められてる。
 医療現場ではどのように検討され、取り組まれているのか-。地域医療の中核を担っている地域医療支援病院の日本赤十字社和歌山医療センターの平岡眞寛院長に医療現場の取り組みを聞いた。

 ◇地域医療の「最後の砦」

 --和歌山医療センター院長に就任される以前は、京都大学医学部附属病院がんセンター長でいらっしゃいました。大学病院と地域医療支援病院では、どのような違いがあるのでしょうか。

平岡 眞寛院長
 平岡院長 大学病院の機能には、医師をはじめとする医療専門職の養成、医薬品や医療技術など新しい医療の開発があります。一方、地域医療支援病院は、標準治療を地域に広く提供している「最後の砦」です。当院では、大学病院の半数以下の医師数で、救急医療、手術などの高度医療に対応しています。

 急性期病院を対象としたDPC制度に大学病院を含む全国1,666病院が届け出をしていますが、当院はこの中で救急車搬送台数は35位、手術件数は30位、全身麻酔下の手術件数は37位です(平成28年度)。大学病院に比べて効率性では優れていると思います。また地域住民との間の垣根が低いことも特長です。

 昨今、どの病院も経営環境が厳しくなり、大学病院と地域医療支援病院が患者獲得を目指してガチンコ勝負をしています。国民とって不幸なことです。それぞれの役割を明確にして必要な支援を行うべきではないでしょうか。

 ◇健全な経営基盤が必須

 --和歌山医療センターは、長く地域の高度急性期医療を支えていますが、経営環境の厳しさは例外ではないと思います。こうした医療機関を取り巻く厳しい環境をどの様にお考えでしょうか。

 平岡院長 経営環境の厳しさは当院も例外ではありません。着任した2年半前は、新棟建設に伴う減価償却も大きく、病院が赤字体質に陥っていました。良質で日本赤十字社ならではの医療を提供するには健全な経営基盤が必須と考え、経営改善に取り組みました。

 それまでの大学病院とはベクトルが異なります。病院経営が何たるか分からない素人院長にとって幸運だったのは、当院の多くの職員が危機感を共有してくれて、変革への大きな推進力となってくれたこと。京都大学の同級生、同僚教授が数多く病院長に就任しており、病院経営の貴重なノウハウを授けてくれたこと。さらには、大学から有能な求心力のある医師を着任させてくれたことは大変大きな力となりました。

 ◇診療科に目標設定

日本赤十字社和歌山医療センター
 収入増には新入院患者の獲得が大切なので、各診療科に目標を設定し、その達成度を電子カルテ上で開示しました。また速やかな入退院を行う「患者総合支援センター」と、地域医療機関との連携を進める「医療連携総合支援センター」を設立し病院主導の体制としました。

 入院期間の適正化がより円滑になり、入院単価の増加に大きく貢献しました。有料個室の稼働率向上、各種加算の追加取得も努めました。支出については、医療材料費のコスト削減を診療科の協力のもと実施しました。

 これらの取り組みの結果、昨年度は7年ぶりの黒字決算が実現しました。そして4月の診療報酬改定ではDPC病院の中でも、高度医療の実績がある155病院に該当する「特定病院群」を維持し、診療効率性等を測る機能評価係数でも高い評価を得ています。地域にとっても、また初期研修医・専攻医にとってもさらに魅力的な病院になったと思います。

 国の財源が厳しくなる中、病院を取り巻く環境は今後も良くなることはないでしょう。そのような中で地域医療支援病院の役割を堅持すべく、高度急性期病院としての機能強化を図り、他の医療機関と連携して地域で医療を完結する医療ネットワークの仕組みを強化しなければなりません。


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