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神経再生で世界をリード
研究重視の地域密着―札幌医大

 その一環として、最先端の研究に積極的に取り組み、具体的な成果が表れてきている。脊髄損傷に対する骨髄間葉系幹細胞を用いた神経再生医療では、臨床試験で有効性が確認され、共同開発を進めている企業が薬事承認申請をするまでにこぎ着けた。再生医療にはiPS細胞などさまざまな分野があるが、脊髄損傷に対する機能回復が見られ、有効性が確認されたのは画期的なことだ。 

 「脊髄損傷の患者さんが、この治療で日常生活が可能になり、社会復帰ができるよう『脊損寝たきりゼロ』を目指しています」。脳梗塞に対する治験も同時進行しており、データがそろえば、さらに広範囲の患者に役立つことが期待される。 

 「20年継続してきた研究です。最初は地道な基礎研究からスタートして、現実の物になってきた。研究には時間がかかりますが、結果が出せれば日本だけでなく、世界中の患者さんに役に立つことができる」

 ◇定年前に退職、大学院へ

 塚本学長自身、札幌医科大学の出身。学生時代、新聞記者になろうと考えたこともあったという。消去法で泌尿器科を選び、教授にまで昇り詰めたが、定年1年前の13年3月に退職し、慶応大学大学院経営管理研究科に入学した。

「学会の座長をした時に、医療経済学者の話を聞いて、面白いと思ったのがきっかけです。新しい開業の形を作ってみようかと」

 当時、考えていたキャッチフレーズが「待ちの医療から町の医療へ」。札幌に医師3人で診療所を開業し、1人は医院に常勤し、2人は泌尿器科の常勤医がいない病院を巡回して、外来や手術も行うというシステムを考えた。

 「米国の医師の働き方をヒントにしました。この形態なら専門医を常駐させられない病院や地域の患者の役に立てる。ところが、一緒に働くパートナーを探していた時に、母校に呼び戻されてしまった。自分の行く末すら予測できないものですね」。2年間の修士課程を終え、経営学修士を取得した後、16年4月、札幌医科大学学長兼理事長に就任した。

 ◇地道にレベル維持

 今後の医療は、高齢化のさらなる進展にどう対応していくかが課題だという。例えば外科手術。医学の進歩で治療がより低侵襲なものに移行すると、ある程度の難易度の手術の件数は減ってくる。しかし、最終的には他の治療では対応できない難易度の高い手術だけが残る。しかも合併症の多い高齢者の手術はリスクが高い。 

 「手術のトレーニングに必要な基本的な経験が積めなくなってきています。手術件数が減っても医療の質を下げないためには、外科医をどう教育したらいいのか、専門医の教育が非常に難しくなっていく。そこをどうするかが大きな課題です」

 地域医療を担う医師はレベルが高くなければいけない。建学の精神を具現化するための地道な取り組みが続けられている。

(中山あゆみ)

 【札幌医科大学の沿革】
1945年7月 北海道立女子医学専門学校創立
  50年4月 新制医科大学の第1号として札幌医科大学開学
  55年9月 附属研究機関としてがん研究所設置
  56年3月 大学院医学研究科の設置認可
  83年4月 札幌医科大学衛生短期大学部開学
  93年4月 保健医療学部を開設
2007年4月 北海道公立大学法人札幌医科大学へ移行
  08年4月 大学院医学研究科(修士課程)を開設
        10月 医療人育成センターを開設
  11年4月 医学部附属がん研究所等を医学部附属フロンティア医学研究所に改組
  12年4月 助産学専攻科を設置
  14年4月 アドミッションセンター設置
        10月 保健管理センター設置 

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