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膝の痛み、健康寿命を左右
サプリ頼みは早計

山本謙吾東京医科大学教授

山本謙吾東京医科大学教授

 ◇人工関節、8万件以上

 痛みに対していろいろな対策をとっても効果が上がらず、歩行に支障が生じるほどの我慢できないような強い痛みが続く場合は、手術という選択肢が浮上する。比較的軽症だったり、軟骨の摩耗が小規模だったりしていれば、負担の小さい関節鏡視下手術や骨軟骨移植手術も可能だ。しかし、進行して、軟骨の摩耗が一定以上に拡大していたり、骨の変形が大きくなったりしている場合は、関節自体をポリエチレンや金属の部品で組み立てられた人工関節への置換が第1選択となる。2016年で膝関節への置換手術は国内で8万件以上行われており、決して特別な治療ではない。

 ただ、「人工関節に取り換えれば健康な体に戻る、とは言い切れない」と、2019年2月に開かれる第49回日本人工関節学会会長でもある山本教授はくぎを刺す。膝の関節の骨を切り落として人工関節に入れ替える手術自体はそれなりの負担を体に強いる。手術後のリハビリテーションに加え、手術直後は月1回、その後も年に数回程度は関節の状態や感染症などを合併していないか診察を受ける必要もある。誰もがいつでも受けられる簡便な治療法には至っていないようだ。

 手術の目安となるのが、膝の症状の程度と日常生活への影響度合い、そして手術に耐えられる体力だ。重症の心臓病や糖尿病などを合併していれば60歳でも難しいし、逆に体力があれば90歳を超えて手術を受けた例もある。「患者側の生活状況が大きな判断材料になる。痛みがひどいが、生活のために働かなければならない。そういう場合は40歳でも手術を検討する。一方、90代で痛みがそれほどでもなく、日常生活にも大きな支障が生じていなければ、手術を見送ることを考える」と同教授は話す。

診療では、患者の膝を動かし状態を把握

診療では、患者の膝を動かし状態を把握

 ◇制限や摩耗も

 手術の改良は進んでいるが、正座が難しいなど人工関節の可動域にはまだ制限が残る。また、時間の経過とともに部品の摩耗などによる関節の緩みなどが生じてしまうことは避けられない。ジョギングを趣味として軽く楽しむ程度なら問題がないが、市民マラソン大会に参加するなど競技レベルにまでいくと、関節への負荷や部品の摩擦は無視できなくなる。

 人工関節自体にも寿命がある。「比較的若い年齢で人工関節への弛緩(しかん)手術を受けると、活動性が高いことなどが原因となって早期に人工関節の摩耗が進み、再度の置換が必要になることもある」と山本教授は言う。再置換手術の場合、1回目の手術に比べて患者は年齢を重ね、関節周囲の骨はその分摩耗したりもろくなったりしている。古い人工関節を外して新しいものに付け替えるためには、医師側にも一定以上の手術技量と患者の全身状況へのきめ細かい目配りが必要とされる。こうした点を踏まえ山本教授は「できるだけ保存療法で歩行機能を維持し、置換手術のタイミングは慎重に判断することが大切だ」とアドバイスしている。(喜多壮太郎・鈴木豊)

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