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すぐそばにある危険
ギャンブル、ネットゲーム依存症

 今、ギャンブルやインターネットゲームの依存症が大きな問題になっている。さまざまな依存症の治療に取り組む国立病院機構久里浜医療センターが1月中旬、横浜市内でフォーラムを主催。ギャンブルやネット依存から立ち直った体験者の報告からは、ストレスや日常の退屈さをきっかけに誰でも依存症に陥る恐れがあるという実態が浮かび上がった。

パチンコは実質的なギャンブル

 ◇自分を大きく見せたい

 トミーさん(仮名)は、小学3年生の時から月に2回、家に親戚が集まり、マージャンをしていた。トミーさんも加わり、そこからギャンブル歴が始まる。さらに、小学生の時にゲームセンターのコインゲームにはまった。「コインをたくさん集め、友達の『すごいよ』という言葉を浴びたかったから」。高校に入ると、学力が高い生徒が多く、パチンコ店に通った。放課後に学校に行き、景品の菓子を友人たちに分けると「すごいね」と言ってくれた。「自尊心が満たされた」と言う。

 浪人時代はパチンコスロットにはまった。カードローンで100万円の借金をつくり、母親に泣きついた。しかし、またギャンブルに戻ると、1度返済しているので借りることができる額は拡大した。「自分自身の価値が上がったと勘違いした」

 ◇嫌なことがあるとギャンブル

 会社員となり結婚し、子どもをもうけたが、ギャンブル癖は直らなかった。「立て替えてください。もう2度としません」。何度も母親を頼った。ギャンブルにはまることは良くないという意識はある。しかし、嫌なことがあると、それを言い訳にしてギャンブルに走った。「結婚して小遣いが減ったから。上司のせいでストレスがたまる。後輩のおかげでイライラする…」。自己正当化する理由は幾つもあった。妻には「残業で遅くなるから」「きょうは休日出勤をしなければならない」とうそをつき、ギャンブルを続けた。

 多重債務者となり、家族に告白する日が来た。中学2年生の息子にこう言った。

 「車も取り上げられるかもしれない。俺は頑張るよ。ギャンブルをやめられると思うか」

 息子は泣きながら言った。「お父さんはやめられないと思うよ」

 立ち直るために、トミーさんは病院、施設、自助グループの中から自助グループを選んだ。「家族にもうそをついてきたが、ここでは正直に話すことで心の重荷が取れた」。週に数回、仕事の後で自助グループの会合に通い、ほぼ3年になる。それでギャンブル依存症を完全に克服することができるのか。「5年、10年とやめていても、1回ギャンブルをしてしまうと依存症は再発する。そんなグループ内の仲間を何人も見てきた」

 ◇引きこもり14時間ゲーム

 フォーラムで過去のインターネットゲームへの依存体験を語ったのが大学院生の泉雄太さんだ。大学時代にアパートの6畳の部屋に引きこもりになった。インターネットのゲームをしているか、寝ているかどちらかという生活を送っていたという。ゲームをしている時間は1日、12時間から14時間にもなり、昼夜逆転していた。食事は1回、コンビニから買ってきた食べ物を食べるだけだ。

 泉さんがゲーム依存症になったのは「大学がつまらなく、生きる目標を見つけることができなかったから」と言う。1、2時間は寝つけないという事情もあった。「眠ることができないなら、ゲームをやった方がよい」という気持ちも働いた。

スマホのネットゲーム

 「唯一、安心できる場所だった」。泉さんにとってネットゲームの世界は居心地が良かった。ネットゲームは集団(チーム)で行うものも人気だ。「チームの仲間たちは優しかった。ネット上のつながりから、リアル(実際の)なつながりができたというケースもある」

 「ゲームがすべてだった」と振り返る泉さんは、ゲームの世界に浸った理由を次のように説明した。ゲーム仲間以外につながりがなく、頼れる人間は母親しかいなかった。長く休んだ後で大学に戻ると、周りから何を言われるかが怖い。ゲームをやめるきっかけがなかった―。「ゲームをしていない時間はすごく不安だった」と言う。

 ◇大きかった母の支え

 「ここでやめないと人生は終わる。覚悟を決めて久里浜医療センターを訪ねた。他の人に聞いても、病院に行く時は『覚悟がいった』と話している」

 大きかったのは、母親の存在だ。3日1度は泉さんにメールし、会いにも来たが、決して泉さんを責めることはなかった。「10時間ゲームをしてもよいから、1時間一緒に外出しよう」「昼夜逆転を直そうね」。泉さんに寄り添い、優しく背中を押してくれたという。2018年の泉さんは海外でのボランティア活動や大学院の勉強などで忙しかった。「依存症から回復しても、ゲームが嫌いなわけではない。他にやる事を見つけたりするなど、ゲームをしない環境づくりが大切だ」と語った。

 ◇パチンコ・パチスロはギャンブル

 アルコール依存症と認知症治療の専門家である久里浜医療センター副院長の松下幸生氏は「日本がユニークな点は、パチンコ・パチスロの存在だ。法律的には『遊戯』だが、景品交換所でお金に交換するから実質的にはギャンブルだ」と指摘した。全国各地どこでもできるので、パチンコ・パチスロへのアクセスは容易。店は午前中から夜まで営業している。「依存性が高いとされる電子ゲーム機(EGM)の台数は諸外国に比べ日本が突出して高い」と警鐘を鳴らす。

 17年度に行われた1万人を対象としたギャンブル依存症の全国調査によると、過去1年間に最も金を使ったのはパチンコ・パチスロ。また、依存症が疑われる人の1年以内のギャンブル賭け金は平均5万8000円だった。カジノを中核とする統合型リゾート(IR)実施法が成立し、日本にもカジノが上陸する。何かと話題になり、カジノ依存症に関する対策の議論も始まる。ただ、松下氏は「今の日本のギャンブルの状況を見ると、カジノ対策の前にやるべきことがあるのではないか」と、問題提起した。(鈴木豊)

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