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重粒子線治療でリード
倫理教育を徹底―群馬大学医学部

 群馬大学医学部は1943年に設立された前橋医学専門学校、官立前橋医科大学を経て、49年に国立群馬大学三学部の一つとして設立された。大学病院としては国内初、世界で2番目に重粒子線治療施設を設置するなど、がんの放射線治療で多くの実績をあげてきた。医療事故問題で取り消された特定機能病院の承認を今年回復。抜本的な組織改革を経て、新たなスタートを切った。石崎泰樹医学部長は「来年度の新入生からカリキュラムが変わり、倫理教育に力を入れていきます。患者さんのQOL(生活の質)を第一に考える医師を育てたい」と話す。

インタビューに応える石崎泰樹医学部長

 ◇放射線医学で実績

 群馬大学医学部は放射線医学領域で古くから先進的な取り組みを続け、日本では遅れが指摘されているがんの放射線治療に貢献してきた。 

 2010年には日本の大学としては初めて、世界でもハイデルベルク大学に次ぐ2番目となる重粒子線治療施設を設置。19年9月末までに前立腺がん、肝臓がん、膵臓(すいぞう)がん、骨軟部腫瘍など約3700例の治療を行った。 

 「例えば私が学生の頃は、骨肉腫が脚にできると切断しなければなりませんでしたが、重粒子線を使えば脚を残したまま治療ができる。QOLを保ったままがん治療ができる重粒子線治療は非常に画期的な治療法だと思います」 

 重粒子線治療は、がんだけに集中的にダメージを与え、周囲の正常な組織にはほとんど影響を与えずに治療を行うことができるため、患者にとって負担の少ない治療法として注目されている。しかし、治療施設は現在のところ全国に6カ所しかない。 

 「理工学部、企業と連携して新しい重粒子線治療技術の研究開発も行っています。大学に設備を持つことで、他の治療法とあわせた集学的治療が可能になっています。これからも国内外の患者さんにより多く来ていただけるよう努めていきたい」と石崎医学部長は意欲的に話す。 

 ◇倫理教育に重点 

 群馬大学医学部が人材育成の基本としているのは、医の科学(Science)、倫理(Ethics),技能(Skills)の三つ。科学に深い関心を持ち、倫理観を備え、しっかりとした技術をもつ医療人を育てることを目指している。 

 特に重点を置くのが倫理教育で、来年度からは6年間を通して、医師としての人間性を育てるための時間を設けることが決まっている。 

 「医師は人間を相手にする職業ですから、患者さんに対する接し方、他の医療職との良好な関係の保ち方などを教育します。理想的には、臨床実習に行った先の看護師さんや患者さんからも評価してもらい、学生を評価してもらうような形が取れたらと思っています」 

群馬大医学部

 ◇医療安全を徹底  

 14年に腹腔(ふくくう)鏡手術による死亡事故が相次いで明らかになった。翌年には特定機能病院の承認を取り消され、群馬大学医学部は再発防止に向けた組織改革の必要に迫られてきた。 

 「これは病院だけの問題ではない。医学生の教育から改革していかなければならないということで、外部から先生を招いて大学院に『医療の質・安全学講座』を設置し、医学科の学生のうちから、しっかりと医療の質・安全学について教育していく体制をつくりました」 

 医学部、病院ともに他の医療職ときちんとコミュニケーションが取れるよう、多職種連携のための合同講義と実習をカリキュラムに組み込んだ。 

 さらに内科と外科のナンバー制度を廃止。第一外科、第二外科のくくりを撤廃し、循環器外科、消化管外科などの臓器別診療科に組み替えた。 

 「それまで第一外科、第二外科が協力せずに、むしろ競い合うような形で別々にカンファランスをして患者さんの治療方針を検討していました。再編後は合同で行うようにしたので、より多くの医師の意見を総合した結果を患者さんに伝えられる仕組みになりました」 

 こうした再発予防策が功を奏し、2019年4月には特定機能病院に再承認され、再生への道を歩み始めている。

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