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重粒子線治療でリード
倫理教育を徹底―群馬大学医学部

 ◇入学から卒後までフォロー

 群馬大学医学部では、国立大学医学部では珍しく、チューター制度を採用している。医学部入学試験の面接で、その学生に高得点を付けた教員がチューターとなり、入学後6年間のサポートを行うという。

インタビューに応える石崎泰樹医学部長

 「この学生なら立派な医師になるだろうと見込んだわけですから、責任をもって育てようということです。もし、きちんと育たなかったら、他の先生から『なんで、あんな学生を選んだのか』と言われますから」

 学生が単位取得試験に不合格となり、再試験を受ける際、チューターの印鑑が必要になる。このため、チューターは自分の担当する学生が順調に勉強できているかを常に把握できる。

 「成績のよい学生とは、あまり接する機会がないのですが、何度もハンコをもらいに来る学生とは付き合いが深くなりますね。私がチューターをしていた時は、医師国家試験の合格が危なそうな学生がいると、自分の研究室に呼んで勉強をさせたりしました」

 医師国家試験に合格すると、教授が自腹でお祝いの食事会を開いたりもするという。6年間、見守ってくれるチューターは医学生にとって心強い存在に違いない。

群馬大医学部

 ◇基礎研究に没頭

 石崎医学部長は仙台出身。吉野作造、井上ひさしなどを輩出した仙台第一高校を卒業後、一浪して東京大学医学部に入学した。結核が専門の内科医だった父親を持ち、子どもの頃から自然と医師を目指したという。

 医学部卒業後は神経系の基礎研究に興味を持ち、大学院に進学。研究者としてのキャリアを積み重ねてきた。

 論文を読んで興味を持ち、ロンドン大学の教授に直接手紙を書いて、留学した。現在の研究テーマは、難病である多発性硬化症の治療法の開発につながる基礎研究。多発性硬化症は、神経細胞の軸索(じくさく)=神経突起=を覆う「髄鞘(ずいしょう)」という絶縁性リン脂質層が障害され、神経の情報伝達に支障が生じるために起こる。最近では著名なピアニスト、アリス=紗良・オットが発病したことで注目された病気だ。

 「留学先で、この病気により研究者としてのキャリアを断念せざるを得なくなった女性の話を聞いたことも、この病気を含めた脱髄性疾患(髄鞘が破壊される疾患)に対する根本的な治療法解明を目指すきっかけになったと思います」

 留学先の上司から「研究者として重要だと信じる問題だけに取り組みなさい。ただし、多くの人が興味をもっていることより誰も手をつけないところに目をつけなさい」と言われたことが、石崎医学部長の研究生活の原点になっているのだという。

群馬大医学部があるキャンパス

 ◇自分より患者のQOL

 「今まで習ったことだけで患者さんを診ていたのでは、どんどん時代遅れになる。臨床医になっても、もっとよい治療法はないかと探す研究心がないと、本当にいい医師にはなれない」と石崎医学部長。臨床を経験し、興味を持てるテーマを見つけてから基礎研究の道に転向するのも一つの方法だと指摘する。

 最近は、医師の働き方改革がクローズアップされ、自身の生活の質を重要視する若手医師も出てきたという。

 石崎医学部長は「もちろん、医師の生活の質も大切ですが、それを考えるのは組織の管理責任者の仕事。医師本人は患者さんのQOLを最優先してほしい。学力だけでなく、医学の道に入って人に貢献したいという意欲の高い学生に、ぜひ入学してほしい」と話す。(医療ジャーナリスト・中山あゆみ)


【群馬大学医学部 沿革】

1943年  前橋医学専門学校 

  48年  前橋医科大学

  49年  群馬大学医学部

  51年   内分泌研究所(現 生体調節研究所)設置

  55年  大学院医学研究科を設置

  96年  医学部に保健学科を設置

2003年  大学院医学系研究科に改組

  05年  重粒子線医学研究センター設置09年  重粒子線医学センター設

11年  大学院保健学研究科設置

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