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新型コロナウイルス禍で、外出自粛が続いている。ウイルスの感染拡大を防ぐためには当然の対応だが、マイナス面もあることを知ってほしい。運動機能が低下するだけでなく、人との会話が減ることで、認知症になる危険性も増すという。専門家は、これを「健康二次被害」と呼び、注意を呼び掛けている。
「コロナを恐れ、ほとんど外に出ない人たちが一定数いる。認知症が進行したり、寝たきりになったりするような状況が見えてきた」
筑波大学人間総合科学学術院の久野譜也教授は、こう指摘する。特に高齢者の場合は筋力の低下による転倒や骨折、認知機能の低下で、要介護や寝たきりになりやすいという。
久野譜也教授
◇被害防止へ連携
大学や企業、自治体、NPO法人などでつくる「健康二次被害防止コンソーシアム」が3月下旬、発足した。正しい情報を届けることで、一人でも多くの人に正しい生活態度を取ってもらい、感染を防ぐとともに、寝たきりにもならないようにするのが、コンソーシアム設立の目的だ。
代表発起人の久教授野は、「コロナ禍が終わった時に、健康な人が増えているような社会にしたい」と話す。
健康二次被害防止コンソーシアムの発起人たち
◇意欲的、活動的に過ごせない
世界保健機関(WHO)によると、2009年時点の死亡リスクは、1位の高血圧、2位のたばこ(喫煙)、3位の高血糖に続き、運動不足が4位となっている。また、権威ある医学雑誌「ランセット」に発表された研究によると、運動習慣がある人は、そうでない人に比べて、コロナ以外の感染症に市中感染するリスクは31%減少し、肺炎などへの感染リスクも37%減少している。免疫力に差があるからだと考えられる。
久野教授の研究室は昨年、六つの自治体で約8000人を対象に、自粛期間の延長に伴う影響を調査した。60歳以上で「意欲的かつ活動的に過ごせなくなった」という人は、2020年5月に比べて11月は約1・3倍に増加した。80歳以上では、約2倍に増えている。同じ時期、「同じことを何度も聞いたり、物忘れが気になるようになったりした」という人は、60歳以上で約2・2倍、80歳以上で約1・6倍になった。
注意すべき点がある。久野教授は「高齢者や、もともと認知機能が低下している人は、そう変化していないだろう。コロナ禍前まで活動的で、地域のコミュニティーに出て健康的な生活をしていた人ほど影響を受けている」と、分析する。
◇運動減り、体調悪化
コロナ禍で、女性専門のスポーツ教室に通っている女性たちも外出を控えた。運動が減った影響はどうか。ある施設に通っていた76歳の女性は「3週間動かなかっただけで、血栓ができたりして大変だった」と言い、78歳の女性は「腰と肩のあたりが重く感じてつらかった。手も上がりにくくなった」と話す。糖尿病を患っている80歳の女性は運動を再開した。「口が寂しいので、何かつまんでしまい、血糖値が高くなった。でも、今は体調が良くなり、よく眠れるようになった」と話す。
安藤梢さん
◇免疫力高める笑顔
外出を控えることで、地域コミュニティーにおける人との接触と会話が減る。これも大きな問題だ。久野教授は「運動機能の低下は、家の中で運動をしていれば、ある程度は防げるだろう。しかし、認知機能の低下は会話の減少に大きく関係する」と指摘する。
顔なじみの人たちと雑談をしながら笑顔になる。笑顔は大事だ。がんの患者に吉本興業の芸人に漫才を聞いてもらい、免疫に関係するナチュラルキラー(NK)細胞の活性度を調べる実験があった。漫才を聞き、大笑いした後では、NK細胞の活性度が上昇し、免疫力が上がったという。久野教授は「各国でも、同様の調査が行われており、医学的な証拠は十分にある」と話す。
2011年の女子サッカーワールドカップで優勝した「なでしこジャパン」のメンバーで、筑波大学助教の安藤梢さんは設立発起人の1人だ。選手との二足のわらじを履く安藤さんは「免疫力を高める生活を意識し、コンディションを管理している」と言う。
「家族や親類、知人たちに『適度な運動や人との関わりが必要ですよ』と話すが、周囲の目を気にしているのか、なかなか伝わらず、実行してもらえない」と身近な例を挙げた上で、「アスリートとして、医学的な証拠がある情報を伝え、みなさんが笑顔で外に出られるようにしていきたい」と語る。(鈴木豊)
(2021/03/30 05:00)
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