2021/06/23 05:00
人生の最後まで自分の足で歩くために
(寺師浩人 日本フットケア・足病医学会理事長)
足の痛みを抱えて患者さんが受診してきた場合、検査をして原因をつきとめ、処置をしたり、必要に応じて手術をしますが、その後のリハビリが不可欠です。処置や手術がうまくいっても、リハビリが続かなければ、トラブルが再発してしまうからです。ただ、わが国の医療サービスを見渡しても、患者さんに必要なリハビリを提供できる環境が整っているとは言い難いのが現状です。足のクリニックは、この3月により広いスペースに移転し、ようやく検査、診断、治療からリハビリまで全てを保険診療で行える体制を整えました。今回は、足のトラブルを解決する上で、リハビリがいかに重要かを解説します。
足底圧装置で歩行解析をする様子(「足のクリニック表参道」提供)
◇治療の仕上げに不可欠
足のクリニックを受診する患者さんが訴えるトラブルのほとんどが、足の痛みと変形です。外反母趾(ぼし)、タコ・ウオノメ、足底けん膜炎、陥入爪、強剛母趾など、現れる症状はさまざまですが、いずれも幹の部分は同じ、足の骨格構造の崩れです。
こうした足のトラブルに対して、私たちができることは、手術やインソールによる足の構造の立て直しのほか、靴の選び方、インソールの作成、サポーターなどの装具、ストレッチや筋トレの指導があります。そして、治療の仕上げに欠かせないのが、リハビリです。
リハビリというと、けがをしたときや、脳梗塞の後遺症に対して行うようなイメージをもたれる方が多いかもしれませんが、足の治療の一環として行うリハビリは、痛みの原因を解消するために行います。歩行解析をして、自分の歩き方のどこに問題があるかを分析し、その人に合った筋トレやストレッチ、正しい歩き方を指導するのがリハビリです。
足底圧装置による歩行解析の結果(「足のクリニック表参道」提供)
◇なぜその歩き方になるのか
足の痛みの背景には、多くの場合、歩き方の問題があります。歩くとき、親指に体重がかからず、浮いた状態になっていたり、片方の足に重心が偏っていたり、足の踏み返しができないために、がに股で歩いたりと、その特徴はさまざまです。
足のどこかに不具合があると、それをカバーしようとして、本来の動きとは違った歩き方になり、さらに症状を悪化させるばかりか、膝や腰、肩など全身の痛みにつながります。足は身体を支える土台だからです。
まず、今どんな歩き方をしているのかを客観的に評価します。理学療法士が歩く様子を観察するだけでも、かなり多くの情報が得られますが、足のクリニックでは移転を機に、「足底圧装置」を新たに導入し、歩行の特徴をより詳しく分析できるようになりました。
外見はランニングマシンのようなものですが、足を出す速度、一歩を踏み出すタイミング、歩幅、重心がどこに乗っているか、など、多くの情報が得られます。この装置は患者さんが歩いている姿を後ろから写して、スクリーンに投影することも可能です。自分がどんな歩き方をしているのか、あまり見る機会がないかもしれませんが、実際、客観的にみると、「こんな歩き方をしていたのか」と驚く人も多いと思います。
「正しい歩き方」の指導の様子(「足のクリニック表参道」提供)
◇まず原因を解決
正しく歩くということを身につけない限り、足の治療は完結しないのですが、まず足の壊れた環境を整えることを先にしないと、正しく歩くことはできません。たとえば、強剛母趾がある場合、親指の付け根の部分が曲がりにくくなるため、かかとから親指に重心が移動して、踏み返すという一連の動作がスムーズにできなくなります。すると、足先を外に向けて、足の内側の側面を蹴って歩く、つまりがに股歩きの状態になってしまいます。不自然な歩き方で足に負担がかかり、親指の付け根に痛みが出たり、足裏にタコができたりします。
こうした場合、まず原因を取り除くことが先決です。手術で親指の付け根が動かせるようになると、その人本来の歩き方ができる土台ができてきます。
足指の治療の様子【時事通信社】
◇改善された足の使い方を学ぶ
手術後は、それまで長年慣れ親しんできた足とは違った状態、つまり今まで使ったことのない足を使って生活していくことになります。改善された足をどのように使っていけばよいのかをリハビリで身に付けてもらいます。
たとえば、左右の足の開きが非対称な場合、片方の足を意識してまっすぐに向けるようにします。重心がかかとの方に偏っていて、母指球を踏めていない場合は、インソールで構造を整えて、重心バランスが取れるようにします。
人それぞれ、骨格も違えば筋力のバランスも違います。その人にとって理想的な歩き方を見いだし、指導していきます。
身体の土台となる足が整えば、その上にくる、ひざや腰への負担も減って、痛みを改善することができます。
今回、クリニックを広い場所に移転したのは、本格的なリハビリを行うためです。旧クリニックでは、スペースが狭かったため、リハビリを保険診療で行うための施設基準を満たしていませんでした。このため、自費診療で行わざるをえず、費用負担が大きくなっていました。新クリニックでは、検査、診断、処置、手術からリハビリによる歩行機能の改善まで全てが、保険診療で対応できるようになったので、より多くの人に利用してもらえるようになりました。
治療からリハビリまで一貫した新体制で、これまで以上に患者さんに喜んでいただけるクリニックに成長していきたいと思います。(文・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)
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