足の悩み、一挙解決
外反母趾の手術で20年来の悩みから解放(足のクリニック表参道院長 桑原靖) 【PART2】第10回
女性の足の悩みのトップにあがる外反母趾(ぼし)は、適切な治療法にたどり着かずに苦労している人が多い病気の代表格です。外反母趾の原因は、足の骨格構造のゆがみですから、初期のうちなら足裏のアーチを支えるインソールを使うだけで改善されていきます。しかし、足の親指の付け根の関節が完全に脱臼して、変形が進んでしまってからは、手術以外の方法では治すことができません。
そこで、私がこれまで手術をした外反母趾の中で5本の指に入る重症な患者さんの体験談をご紹介します。
手術前の足のレントゲン写真。外反母趾がかなりの重症であることが分かる(「足のクリニック表参道」提供)
◇週1度のテーピングとマッサージを20年間
佐藤真喜子さんが外反母趾に悩まされるようになったのは、会社員として忙しく働いていた40代前半のことでした。大学病院で親指と人さし指の間にラバー製のパッドをはめる指導を受け、半年ほど続けていました。ところが、ラバーで引き離した他の指が親指の力に押され、小指側に曲がるようになってきてしまいました。歩き方を改善するように言われたこともあり、外反母趾の原因はハイヒールを履いていたことと、自分の歩き方が悪いからだと考えていました。
しかし、大学病院での指導を受けた後も、次第に通勤の途中で足が痛くなるようになりました。さらに週末にテニスをすると、太ももの付け根から膝元までが腫れるようになって、外反母趾専門とうたうマッサージに通うようになりました。週に1度のマッサージと、足のテーピングを15年間続けました。
テーピングをすると足が固定されるので、とりあえず痛みは軽くなり、ゴルフの練習にも出掛けられました。ただ、1週間のうち5日間はテープを巻いたままなので、お風呂に入るときは足にポリ袋をかぶせなければなりませんでした。これからさらに年を取っていったとき、いつまでもビニールをかぶせてお風呂に入るのは大変だなあという気持ちもありました。
そんな折、マッサージ店が廃業することになり、困っていたところ、友人が巻き爪で通っている足のクリニックを紹介されます。佐藤さんが自分の外反母趾に気づいてから、実に30年近くがたっていました。
このとき、佐藤さんの外反母趾は、親指の付け根の関節が脱臼しているだけでなく、人さし指が小指側に曲がって、中指の上に重なるように乗り上げた状態でした。長年、テーピングで指の変形を修正してはいたものの、それはその場しのぎの処置に過ぎず、どんどん進んでいく変形を食い止めることはできなかったのです。
初めての外来受診で桑原院長から、「この状態だと手術以外の方法では、満足な日常生活を送れるようにはなりません」と説明を受けました。手術だけは避けたいと思ってきたものの、桑原院長の分かりやすい説明と励ましを受けて、佐藤さんは手術をすることを決断しました。
診療を受ける佐藤さん(「足のクリニック表参道」提供)
◇患者の立場にたった資料で気持ちが前向きに
足のクリニックでは入院・手術ができる設備がないので、提携先病院の予約を取ることになり、佐藤さんは少し考える時間ができました。それまで外反母趾の手術は、入院に1カ月、リハビリに2カ月くらいかかり、普通に歩けるようになるまで3カ月はかかると思っていたのです。それが、早い人では術後2日で、自分の足で歩いて退院できると桑原院長から説明を受け、とても驚きました。
手術を受ける気持ちは決まったものの、両足を一度に手術する決心がなかなかつかず、1カ月がたってしまいました。その間、佐藤さん足のクリニックでもらった「外反母趾の手術を受ける人向けのQ&A」と、治療経過を写真で分かりやすくまとめた資料を何度も読み返すことで、手術を受けることへの前向きなイメージができてきました。
そうやって気持ちを固めた上で、手術のため入院しました。手術は全身麻酔で行うため、痛みも何も感じないまま眠りにつき、気がついたころには全て終わっていました。本来なら目が覚めた直後から激しい痛みを感じるものだそうですが、麻酔で寝た後に神経ブロック(足首から先の神経に直接麻酔薬を注射)を行ったため、一番痛みが強い時間帯はこれが持続します。また手術の際は足への血液の流れを止めた状態で行うため、出血は5ccもないそうです。
手術は左右の親指と左の人さし指の変形を、骨を切って修復するというもので、2時間かかりました。中指の上に重なってしまっていた人さし指は、変形が激しいため、直径1.4ミリの針金を通して矯正します。
佐藤さんが目を覚ましたのは、手術を終えて病室に戻った後でした。鎮痛剤の内服薬が効いて、術後の痛みはときどきピリッとした感じがあるだけで、眠れないほどの痛みに見舞われることはありませんでした。
手術前の説明どおり、佐藤さんは自分の足で歩いて退院することができました。左足の人さし指に針金が刺さったままの状態でしたが、不思議と痛みはありませんでした。荷物があるので娘さんが迎えにきてくれましたが、佐藤さんの後ろ姿を見て「歩き方が変わった」と驚いたそうです。手術をするまでは、親指に力を入れることができず、歩き方が不自然になっていたのです。佐藤さんは長年、腰痛に悩まされていましたが、それも歩き方のせいだったのでしょう。
手術後の足のレントゲン写真。左足の人差し指には変形を矯正するために針金が通されている(「足のクリニック表参道」提供)
◇退院後3度目の受診で針金を抜く
佐藤さんは退院後、足のクリニックでの3度目の受診で、左足の人さし指に刺さった針金を抜きました。どんなに痛いかと身構えていましたが、「え?もう抜けたんですか」と拍子抜けするほど、すんなり抜けたそうです。針金を抜いた部分に少量の血がにじんでいましたが、特に痛みはありませんでした。
佐藤さんは手術後、シャワーだけで済ませていましたが、この日に入浴の許可が出ました。水泳やゴルフの練習もできるそうです。まだ長く歩くと足が痛くなるので、ゴルフのコースに出るのは難しいと言われましたが、1カ月半くらいたてばそれもできるようになり、3カ月後には走ることもできるとのことでした。
最後に、外反母趾の原因は、歩き方でもなく、靴のせいでもなく、足の骨格構造の崩れなので、再発を防ぐためには、インソールを使ってその構造を崩れる前の状態に戻しておくことが必要だとの説明を受けました。手術後3カ月でオーダーメードのインソールを受け取ったら、それで治療は完了です。
佐藤さんが外反母趾の手術を受けようと思った直接のきっかけは、習っているシャンソンの発表会の舞台を見に来てくれた友人の「かっこよかったけど、靴がね~」というひと言でした。佐藤さんは、痛む足でも履ける靴の中で一番きれいなものを選んだつもりでしたが、服装に合っていなかったのです。せっかくおしゃれをしても足元が決まらないと残念だなと痛感し、手術を受けることを考え始めました。手術後、3カ月もすればヒールの靴も履けるようになるそうなので、佐藤さんはおしゃれもたくさん楽しんで、100歳までアクティブに充実した人生を歩んでいきたいと思っています。
◇早期に適切な治療を
佐藤さんの場合は、かなりの重症になってから手術を受けましたが、今ではご本人も「もっと早くに受けたらよかった」と考えています。また、軽症のうちはインソールを使うだけで進行を抑えられことを知り、外反母趾で悩んでいる人には、「できるだけ早い段階で治療を開始した方がいい」とアドバイスをしたいそうです。(文・構成 ジャーナリスト・中山あゆみ)
全国から患者が殺到するクリニック
「足のクリニック表参道」院長。2004年埼玉医科大学医学部卒業。同大学病院形成外科で外来医長、フットケアの担当医として勤務。13年東京・表参道に日本では数少ない足専門クリニックを開業。専門医、専門メディカルスタッフによるチームで、足の総合的な治療とケアを行う。
日本下肢救済・足病学会評議員。著書に「元気足の作り方 ― 美と健康のためのセルフケア」(NHK出版)、「外反母趾もラクになる!『足アーチ』のつくり方」(セブン&アイ出版)など。
(2021/02/03 05:00)
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