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同性婚が認められないのは婚姻の自由などを保障する憲法に違反するとして、北海道の同性カップル3組が国に対し1人100万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が3月17日、札幌地裁であった。武部知子裁判長は、同性婚が認められないことを、憲法14条が定めた「法の下の平等」に照らし違憲と判断。一方、原告側の請求は棄却した。(時事通信社札幌支社 足立柚佳記者)
同性婚が認められないは憲法に違反するとして損害賠償を求めた訴訟の判決後、「違憲判決」の旗を掲げる支援者ら
同性婚とは男性と男性、女性と女性が結婚することで、2001年4月にオランダで初めて認められて以降、欧米諸国を中心に拡大。19年5月には台湾で、アジアでは初の同性婚法が施行された。原告弁護団によると、海外では約30の国・地域で同性婚が認められている。日本では15年、渋谷区が全国で初めて同性カップルにパートナーシップ証明書を発行する条例を施行。これまで約80自治体が同様の「パートナーシップ制度」を導入し、交付件数は20年末時点で約1500組に上るという。
しかし、憲法24条は「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立」と定め、「両性」とは男女を指すとして、国は同性婚を認めていない。原告側は違憲性を問い、札幌、東京、名古屋、大阪地裁で19年2月に国を相手取り一斉提訴。同年9月には福岡地裁でも訴訟が始まった。
札幌地裁の原告は、帯広市の40代男性2人と、札幌市の20代と30代の女性、年代非公表の男性2人。武部裁判長は提訴から2年で判決を出す審理計画を提示。新型コロナウイルスの影響で訴訟期日が延期になる地裁が多い中、20年8月には原告5人と原告の家族1人に、全国初の尋問を実施した。武部裁判長の積極的な訴訟指揮により、全国初の判決となった。
武部裁判長は、「同性愛は精神疾患ではなく、自らの意思に基づいて選択・変更できないことは、現在は確立した知見になっている」と指摘。同性婚を認めず法的効果が受けられない点を「合理的根拠を欠く差別取り扱いに当たる」とし、法の下の平等に照らして違憲と判断した。
ただ、「国民の多数が同性婚に肯定的になったのは、比較的近時」と指摘。「違憲状態を国が直ちに認識することは容易ではなかった」として、国家賠償法上の違法性を認めず、請求を退けた。 また、憲法24条について、原告側は、「婚姻の自由をすべての人に権利として保障したもの」と主張。しかし判決では、「両性」など男女を想起させる文言を用いていることから、「異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではないと解するのが相当」と結論付けた。
◇原告の思い
「パートナーが病院に運ばれたら、連絡があるのか」「災害で避難所生活になったら、一緒にいられるのか」──。
同性のカップルは、結婚が認められないことで将来への不安を抱えながら過ごしている。原告は「若者たちに同性間の婚姻制度がないことで悩んでほしくない」との思いで訴訟を闘ってきた。 原告の女性カップルは20年6月に家を購入したが、結婚していない2人がペアローンを組むのは難しく、一括払いを選択。貯金は、ほぼゼロになった。家の持ち分は半分ずつだが、相手が他界した場合、相続権は親や兄弟が上位で、パートナーへの相続には遺言を作成する必要がある。「結婚が認められれば保障されるのに、不条理」と怒りを示し、「幸せに生きたい人の選択肢を増やして」と訴えてきた。
原告の40代男性は「自分が20代で悩んでいたことと同じことを若い世代も悩んでいる」と苦しい胸の内を明かした。以前から性的少数者(LGBTなど)の権利獲得のために活動する中、カミングアウトできず、普通の結婚を期待する周囲からの圧力に押しつぶされる人を見てきた。同性で付き合い、2人で幸せに暮らしていけるのに、自ら命を絶ってしまう人もいる。同性婚が認められないのは違憲との判決に「涙が止まらなくなった」と語る。パートナーの40代男性も「私たちが勝ち得た一歩を後退させるようなことはしてほしくない」と話した。
判決後、記者会見する原告
◇同性婚をめぐる動き
同性カップルの権利や利益に関して、裁判所の判断は分かれ、国は同性婚を「想定していない」との姿勢を貫いてきた。そんな中で、札幌地裁は国民意識の変化を重視した。
19年3月、日本人男性と20年以上共同生活していた台湾人男性が、国外退去命令の取り消しを求めて係争中に、東京地裁から見直しを打診された法務省は同命令を取り消し、男性に在留特別許可を出した。
宇都宮地裁真岡支部は同年9月、事実婚関係にあった同性カップルのパートナーの不貞行為が原因で破局をしたとして、女性が元パートナーに損害賠償を求めた訴訟で「同性同士でも内縁関係に準じた保護を受けられる」と判断し、賠償を命令。二審東京高裁は「婚姻に準じる関係」と認め、最高裁でも賠償を認める判決が確定した。
一方、同居する同性パートナーが殺害された男性が遺族として給付金の支払いを求めた訴訟で名古屋地裁は20年6月、「同性間の共同生活が婚姻関係と同視できるとの社会通念が形成されていない」として、請求を退けている。
同性愛をめぐっては、明治時代は精神疾患であり、正常な婚姻関係は形成できないと考えられていた。戦後、現行民法になった後も同性婚は認められないとされており、国は「憲法24条で同性婚は想定されていない」と繰り返す。20年1月、安倍晋三首相(当時)は「わが国の家族の在り方の根幹に関わる問題」と述べた。
札幌地裁判決では、1973年以降、米国精神医学界などが同性愛は精神疾患でないことを明らかにし、国内でも92年ごろまでには同様の知見が確立したとされた。
国民の意識に目を向けると、電通が2018年にインターネットを通じ、全国の20〜59歳の約6000人に行った調査でも、78.4%が同性婚の合法化に「賛成」または「どちらかというと賛成」と回答。性的少数者への差別をなくすための法整備をすべきだとの回答は72.1%に上った。
地裁は、同性カップルへの差別を解消すべきだとの要請が高まっているとする一方、同性婚に対し否定的意見を持つ国民も少なからずいると指摘。今回の判決に国民の理解の後押しが期待される。
◇原告が控訴
判決後、加藤勝信官房長官は、地裁の判断について「政府としては婚姻に関する民法の規定が憲法に反するものとは考えていない」などと反論。自民党の下村博文政調会長も「一足飛びに同性婚やパートナーシップ制度まで進めることは、かえって社会の混乱につながる」と慎重姿勢を示した。一方、立憲民主党の枝野幸男代表は「大変画期的で、大事な判決だ」と評価。自民党内でも性的少数者への国民の理解を促すため、議員立法による新法の制定論が浮上している。
こうした中、原告側は3月31日、国が立法を怠ったことを認めず賠償を認めなかった札幌地裁判決を不服として札幌高裁に控訴した。
控訴後、記者会見した弁護団は「地裁判決が確定しても同性婚がすぐに実現するわけではない。立法に向けたプレッシャーになるよう闘っていきたい」と述べた。(時事通信社「厚生福祉」より転載)
(2021/05/18 05:00)
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