ダイバーシティ(多様性) 障害を持っても華やかに

聴覚障害のある私、コロナで日常生活の一つ一つにストレスが! (ソニー出身、デフサポ代表取締役 牧野友香子)【第1回】

 普段身近に感じないことが多い「聴覚障害者」について、皆さんどのくらい知っていますか?特にわが家の場合、長女が難病ということもあって通院、入院で大変だったことや、コロナ禍でコミュニケーションを取ることが一気に難しくなったことなど、体験談を交えてお話ししていく予定です。こういう人もいるんだなあと知っていただけるだけで、特に大きな配慮がなくても、気に留めていただけるだけで、私たちが生きやすくなることを知ってほしいなと思っています。

牧野友香子さん

 私自身は生まれつき重度の難聴があり、口を読みながら会話をしています。そんな私にとって、2020年のコロナの大流行はすごくストレスになる出来事の一つでした。

 そのお話をしたいと思います。

 実はコロナ禍になったことで、私にとって何が一番大変だったのか。

 マスクが必須になったことです。

 実は私自身、補聴器を着けても耳がほぼ全く聞こえないのですが、幼少期から必要に迫られて習得した読唇術が大の得意だったんです。

 口を読むことで、ある程度会話が成り立ち、困ることがあまりなかったんです。

 そんな私の自信は、コロナ禍であっと言う間に崩れ去りました。

 ◇コンビニですら、気軽ではなくなった・・・

 まず、お昼を買いに立ち寄ったコンビニでは何を言っているのかが分かりません。

 今までだったら、「ポイントカードはお持ちですか?」「温めますか?」「お箸はお付けしますか?」…と口の動きを見れば分かっていたものが、一切分からなくなりました。

 適当に(きっと「袋は要りますか?」と「お箸をお付けしますか?」だろうなと思いながら)うん、うん、、、と言って、かなりけげんそうな顔をされたときに、はっ!これは間違えた答えをしたな…と思い「すみません…私、耳が聞こえないんです、口を見ているのでマスク外してもらうことって…」(ギロっとにらまれて)

 「あっ!コロナですもんね、無理ですよね!大丈夫です!筆談でお願いしてもいいでしょうか?」(あーあ、まったくこの忙しいときに・・・と、めんどくさそうな顔で)(えー・・・だ!か!ら!・・・)「あっ、大声で言ってもらっても分からないんです・・・すみません」と謝る毎日に変わりました。

マスクをした売店の店員(写真はイメージです)

 ◇そうして、日常生活が一変しました

 あるときはスーパーで夫と買い物をしているときに、夫にマスクを少しだけ下げてもらって「きょうお肉安いし多めに買っておく?」「そうだね!いいね!」と言った会話をしているとマスクをしないなんて非常識・・・という目で見られたり。大人の場合は筆談や音声認識などで対応ができるので、まだいいのですが、何より大変なのは育児がしづらくなったことです。

 ◇知らないおじいさんに、こっぴどく叱られた

 保育園帰りに3歳の子供が大号泣してしまい、私に何かを訴えかけているのですが、何を言っているのかマスクで全くわからないので「ママ、マスクがあると分からないからさ、マスク外してね」と言ってマスクを外させて、大号泣している子供の口を読みながら、「あ、なるほど・・・」と理解して、ちゃんと話をしようと、わが子の目線にしゃがんだ直後に、私たちをジロジロ見ていたおじいさんに、すごいけんまくで叱られました。ただ、マスクをしていたので、なんと言っていたのか分からず、とにかく叱っていることは分かったので、うちの子が泣いてうるさかったのかなあ??と思い、「すみません!!」とひたすら謝って、満足したおじいさんが去っていったあと、大号泣していた子供がポツリと言いました。

 「ねえママ、マスクを外すなんてありえない!って怒ってたよ。私がマスク外しちゃったからかなあ・・・」としょんぼりした顔で。

 こんな小さい子の前で、そこまで怒ることはないんじゃないのかな・・・私が聞こえないからこんなことになるの?事情があることをもう少し分かってほしかったなあ…と思いながら、「〇〇ちゃんのせいじゃないよ!ごめんね、ママが外してって言ったからだね。でもママはお口を見ないとお話が分からないの。だから外してお話してくれてありがとうね」と慌ててフォローを入れました。

 公共の場で子供と会話をすることもままならない生活になってしまったと大きく感じたきっかけです。

補聴器

 ◇人は知らないことに想像力は働かない

 もちろんマスクでの感染予防は大切ですので、私自身も手洗い・うがいに、マスクにアルコールはしっかりしようと思っています。ただ、これまで難聴があっても口を読むことで当たり前のように会話ができていた私にとって筆談で家族と会話するというのはすごくストレスにもなります。

 出先でちょっとした話を分かち合いたいとき。夫と子供たちがワイワイ話している内容がこれまでは分かっていたはずなのに、マスクという布切れ一枚挟まってしまうだけで一切分からなくなってしまい、どんどん会話ができず、毎日寂しくなっていきます。

 そうして、マスクが当たり前になった今では、保育園からの帰り、一切子供と会話ができない…。そんな日々を過ごさなければならない難聴者が隣にいるかもしれません。

 ◇感覚過敏などでマスクを着けられないという方がいるかも知れません

 事情がある人もいるかもしれない、と言うことを知ってもらえるだけで、次にそういう人に会ったときに冷たい目ではなく、ああ、分からないのかな?などと想像してもらえるかもしれません。

 本連載を機に少しでも「マスクを外しているのは理由があるのかな?」と、すぐに全否定するのではなく、少しだけでも気に留めてもらえるとうれしいです!

 もちろん感染防止が一番大切なので、フェースシールドが感染防止の効果がないということは承知した上で、並行して透明マスクやアクリル板はどうなのか?フェースシールドの代わりになる感染防止をしながらも口が見える製品はないのか?など、そういったことも、もっと数値化してマスメディアなどでも取り上げていただけたらなあ…と心から願っています。

牧野さん

 ◇聴覚障害者といっても、いろいろな人がいるので正解はない!

 私の場合は、聴覚障害があって、マスクをされると会話が全く分かりません。

 ただ、聴覚障害者と一口に言っても、人工内耳をして聴覚活用(耳を使って会話をする人のこと)をする人もいれば、手話を使う人、筆談をする人と、いろいろな人がいます。

 アクリル板やフェースシールドが分かりやすい!という人もいれば、マスクの方が聞き取りやすい、という人もいます。(了)

 ▼牧野友香子(まきのゆかこ)さん略歴

 株式会社デフサポ 代表取締役

 生まれつき重度の聴覚障害があり、読唇術で相手の言うことを理解する。

 幼少期にすごく良いことばの先生に出会えたことでことばを獲得し、幼稚園から中学まで一般校に通い、聴者とともに育つ。

 大阪府立天王寺高等学校から神戸大学に進学し、一般採用でソニー株式会社に入社。

 人事で7年間勤務。主に労務を担当し、並行してダイバーシティの新卒採用にも携わる。

 第1子が50万人に1人の難病かつ障害児だったことをきっかけに、療育や将来の選択肢の少なさを改めて実感し、2017年にデフサポを立ち上げ、2018年3月にソニーを退職し、聴覚障害児の支援に専念。デフサポでは聴覚障害児の親への情報提供、ことばの教育、就労支援を中心に実施。

 2020年より多くの人に難聴に興味を持ってもらいたい!とYouTubeでデフサポちゃんねるをスタートする。

 デフサポちゃんねる

 デフサポHP

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