歯学部トップインタビュー

世界最大の歯科大学
~歯科医療の新時代をリード~
-日本歯科大学新潟生命歯学部-

 日本歯科大学は、1907年に日本最古の歯科医学校として中原市五郎氏が東京都千代田区に創立した私立共立歯科医学校に始まる。創立116年となる今日に至るまで約2万人の歯科医師を社会に輩出してきた。72年に新潟歯学部(現・新潟生命歯学部)を開校、全国に先駆けて訪問歯科診療を開始し、学生全員が認知症サポーターの認定を受けるなど、超高齢化時代に向けた歯科医療界のフロントランナーとして実績を積み重ねてきた。中原賢歯学部長は「歯科医師が過剰だと言われますが、地方の歯科医師の数は圧倒的に足りない。超高齢社会において、今後ますます必要とされる在宅訪問歯科診療にも対応できる歯科医師を育成していきたい」と意気込みを語る。

中原賢歯学部長

 ◇全国で初めて訪問歯科診療を開始

 日本歯科大学新潟生命歯学部は、今から30年以上前、まだ訪問診療という概念が無かった時代に全国初の訪問歯科診療を開始した。

 「日本には歯科医院を受診できない高齢者が約227万人います。口腔(こうくう)ケアを受けられずに歯周病になると、心筋梗塞、脳梗塞糖尿病などの病気の元になることがあります。高齢者の口の中をきれいに保つことができたら元気な高齢者が増えるのに、訪問歯科診療を受けている人は1割にすぎません」

 2018年4月には、在宅の歯科診療を専門に行う歯科診療所として「在宅ケア新潟クリニック」を開設した。歯科の診療台は一台も備えず、ミーティングスペース、器材を消毒、滅菌する機械があるだけ。訪問する車に器材を載せて施設を訪問し、口腔ケアを行う拠点となっている。

 「10~20年後には、こうした歯科医療がスタンダードになっているかもしれません。それを学生のうちから学んでおいてほしい。例えば、女性歯科医師が出産、育児をしながら自宅を在宅ケア専門のクリニックとして開業し、施設や患者さんの自宅を訪問してケアをするという働き方が今後できるようになるかもしれません」

 口腔ケアをした結果、医療費、介護費が削減されれば社会保障費から子育て支援に回す予算にも余裕が出る。歯科医師や歯科衛生士の仕事が少子高齢化に歯止めをかけることができるかもしれないと、中原歯学部長は期待する。

 ◇学生全員が認知症サポーターに

 18年には、地域の認知症患者や家族と一緒に料理や会話をしてくつろげる場所として、大学併設の認知症カフェをオープンした。教員や管理栄養士等も参加するが、企画運営は学生に任せている。

 「高齢の認知症患者はどんどん増えているので、学生が歯科医師になって活躍する頃には必ず認知症の患者さんを治療する機会があります。そのときに備えて、認知症の患者さんや、ご家族に触れてもらう非常に貴重な場となっています」

 さらに、5年生で行う病院実習の中で、学外の病院に入院している患者が施設に移行する際のカンファレンスを見学し、退院後の歯科医師の関わり方や役割を学ぶ機会も設けている。

 厚生労働省は、団塊の世代が75歳以上となる25年をめどに、重度な要介護状態になっても在宅で生活できるような地域包括ケアシステムの構築を進めている。同大学では、そのシステムの中で活躍することを見据えた歯科医師の育成を進めている。

日本歯科大学新潟病院

 ◇歯の細胞バンク外来

 東京の生命歯学部では、歯を使った最先端の再生医療に取り組んでいる。

 「歯の細胞には再生能力があることが分かっているので、将来的に再生医療がもっと進んだ際、全身の臓器の再生に使用できるように歯の神経の細胞(歯髄細胞)を残しておきます。親知らずでも虫歯にかかっていない歯髄であれば、歯科医院で歯を抜いて試験管に保存できます。孫へのプレゼント代わりにするという人もいます」

 日本歯科大学新潟病院には、歯の細胞バンクへの登録を希望する患者の抜歯を行い、バンクへ発送する「歯の細胞バンク外来」がある。

 ◇「求む」本気で歯科医師になりたい学生

 「本気で歯科医師になりたい学生に来てほしい」というのが中原歯学部長の切実な願いだ。現実に「医学部に入れなかったから歯学部でいい」「歯科医師の親に言われて仕方なく」という理由で入学する学生が少なからずいるという。

 「そういう学生は途中でリタイアする可能性があります。モチベーションが上がらない学生には早い段階で進路変更を促して、次の道を応援します」

 やる気のある学生を採用するために、学力試験を無くし、面接だけで試験をする総合型選抜を設けるなど、試行錯誤を重ねている。

 「最初はモチベーションが低くても、どこかでスイッチを切り替えて、歯科医師が自分の道だと決められればいいと思うんです。医学部を目指して自分で工夫しながら受験勉強してきた学生が、目標を歯科医師に切り替えた場合には、その経験を生かして優秀な成績で卒業していくことがよくあります」

 学生の8割が県外出身者で、高校卒業後、初めて1人暮らしを経験する学生が多い。このため、若手の教員が7~8人の学生に対して1人割り当てられ、メンタルケアや勉強方法のサポートを行う。

 「うちの教育力は自慢できると思います。新潟という立地で、勉強に集中しやすい非常に良い環境ですから、6年間、しっかり学んで社会に役立つ歯科医師になってほしい。実際、クリニックを開業して成功する学生が多いのも本学の特徴です」

日本歯科大学新潟生命歯学部

 ◇2人の恩師との出会いがターニングポイントに

 中原歯学部長は創始者である市五郎氏の家系に生まれ、父親の中原泉氏は現理事長。歯科医になるのが当然という環境で育った。

 「親が歯科医だったから歯学部に入ったというのは、うちによくいる学生と同じです。小学校からずっとサッカーをやっていて、『Jリーガーになりたい』と本気で思っていました」と笑う。

 日本歯科大学新潟歯学部を卒業後、東京歯科大学の大学院に進学。解剖学講座を専攻し、講座の教授の一言で、本気で歯科医師の世界で生きていこうという気持ちにスイッチが入った。

 「『僕は君に解剖そのものではなく、講座、組織というものを学んでほしい』と言われて、覚悟が決まり、この人に学びたいと思いました」

 留学先のスイスのベルン大学では、それまでの基礎講座とは分野の異なる臨床の頭蓋顎顔面外科の講座を選んだ。来日していた教授が、ヨーロッパの歯科事情を教えてくれるというので会うことになったのだが、最後に、『僕のところへ来たら君のやりたいことは何でもさせられるよ』と誘われた。

 「自信と確信に満ちた言葉で、『この人の背景にあるものは何なのだろう』と興味を持ちました。私自身が次第に歯科の世界にひかれていったこともあり、最初から本気でなくても、どこかで歯科医師になると腹をくくることができればいいと思っています」

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