治療・予防

子どもの自傷行為
~つらさ知ろうとする姿勢を(国立成育医療研究センター 山口有紗医師)~

 手首をカッターで切るなどの子どもの自傷行為は、周囲の大人にとって衝撃的だ。なんとかやめさせようとする大人も多いが、国立成育医療研究センター(東京都世田谷区)の山口有紗医師(小児科)は「子どもが感じているつらさを、まず知ろうとすることが大切です」と呼び掛けている。

多岐にわたる自傷の方法

 ◇「自己治療」の方法

 同センターが2021年12月にアンケートを実施したところ、小学4~6年生の14%、中学生の12%、高校生の25%が「過去1週間に自分の体を傷つけたことがある」と回答。中には「ほとんど毎日」という子どももいた。

 山口医師によると、自傷行為をする子どもには虐待や経済的困窮、いじめなど家庭内外の問題や、抑うつ、不安といったメンタルヘルスの不調などが背景にあるという。さらに、コロナ禍で相談したり支援を受けたりする機会が減っているため、自傷行為という孤独な方法を選ばざるを得ない子どもがいる可能性もある。

 自傷の方法は、リストカットのように身体の表層を直接傷つける行為が典型的だが、せき止めや痛み止めなどの市販薬の過剰服用や飲酒や喫煙、過食嘔吐(おうと)、不特定多数との性交渉や夜間の徘徊(はいかい)の繰り返しなど、間接的に自分を傷つけようとする行為も広義の自傷と捉えられるという。

 山口医師は「自傷行為の背景には、言葉にできないつらさがあり、自分の体を傷つけることで生きていることを再確認している子どももいます。自傷行為はその子にとって、なんとかたどり着いた自己治療の手段として役に立っている部分もあるのかもしれません。大人の気を引くためだけの行動ではありません」と強調する。

 ◇周囲の大人のケアも

 自傷は一人で行うことが多く、周囲には気付かれにくい。不眠など生活リズムの乱れや、元気や食欲がないといったサインを見逃さないようにしたい。

 ただ、自傷行為を見つけても、頭ごなしに叱ったり、禁止したり、命の大切さを説いたりしてはいけないという。「自傷は子どもにとって生きるための必死の行動かもしれず、まずその状態をそのまま受け止めることが大切です。自傷の必要がなくなれば、自傷行為から自然に遠ざかっていきます」と山口医師。

 だが、自傷行為の頻度が増え、日常生活に支障が出るようなら児童精神科などを受診したい。山口医師は「子どもの自傷行為に接する大人のケアも重要です。対処に困ったときは、一人で抱えず、地域の子育て支援センターや精神保健福祉センターなどに相談を」と勧めている。

 同センターはリーフレットと動画などを作成し、子どもの自傷行為に関する理解を呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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