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「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」は、乳がんや卵巣がんなどにかかるリスクが高まる遺伝性のがん体質の一つだ。「30~40歳代前半で乳がんを発症した場合や、卵巣がんを発症した場合は、HBOCの可能性も考えることが大切です」と、順天堂大学医学部付属順天堂医院・臨床遺伝外来の新井正美教授は話す。
遺伝学的検査で公的医療保険が適用される要件(一部抜粋)
◇遺伝子の病的な変異
「HBOCは、DNAに生じた傷を修復する働きを持つBRCA1あるいはBRCA2という遺伝子が、十分に機能しない状態です。がんを発症しやすい体質と言えます」と新井教授。両親のどちらかにこの遺伝子変異があると、子に受け継がれる確率は男女問わず2分の1になる。「HBOCは約500人に1人の割合で見られ、比較的頻度の高い遺伝性のがん体質です」
HBOCの場合、女性では70歳までに約60~70%の人が乳がん、約20~40%の人が卵巣がんを発症するとされる。乳がんの場合は40代前半で発症しやすく、BRCA1の変異があるとホルモン療法の効果が期待できない「トリプルネガティブ」と呼ばれるタイプが多いなどの特徴がある。日本では、乳がん患者の約4%、卵巣がん患者の約10~15%がHBOCとみられている。
年齢を問わず膵臓(すいぞう)がん、また男性の乳がんや前立腺がんなどの発症リスクも高くなることが分かっている。
◇遺伝学的検査
自分にHBOCの可能性があるかについては、がんの家族歴(血縁者のがんの発症状況)などが参考になる。診断には、血液を採取して遺伝子の変化の有無を調べる遺伝学的検査が必要だ。2020年に、一定の要件を満たす場合に公的医療保険の適用が認められた。
「HBOCかそうでないかで、その後の検診や治療の選択肢が異なります。適切な治療のためにも遺伝学的検査を受ける意味は大きいです」と新井教授。また、HBOCと診断された場合は、早期発見のため乳房MRI(磁気共鳴画像装置)などを用いた計画的な検診や、がん発症前に乳房や卵巣を予防的に切除するリスク低減手術などの対策が講じられる。リスク低減手術にも20年、条件付きで公的医療保険の適用が認められた。
HBOCの診断は、本人はもちろん、家族にも影響を及ぼすデリケートな問題だ。「自分ががんになりやすい体質かどうかを知っておくことは、自分自身や血縁者の健康管理に役立つと考えられます」。がんの遺伝について適切な認識を持ち、自分に合った選択をするためにも、HBOCの可能性がある場合は、専門家による遺伝カウンセリングを受けるよう勧められている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2022/12/28 05:00)
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