こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情

第4回 遺伝性乳がん、検査で調べるリスク
カウンセリングへの目安と治療の流れは 東京慈恵会医科大学の現場から

 乳がんの5~10%を占める遺伝性乳がん。その原因となる遺伝子の「病的バリアント」(バリアントは以前は変異と呼んでいました)があるかどうかを調べるためには、血液を採取して遺伝学的検査を行います。

 検査の前提として、遺伝性乳がん家系である可能性を考慮すべき状況にあるかどうかは、全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)のガイドラインを参考に考えた上で、遺伝の専門家にカウンセリングを受けることが勧められています。

 例えば、50歳以下で乳がんと診断された若年性乳がん患者は、遺伝性乳がん家系かどうかの詳細な評価を実施すべきだとされています。他にも、本人のがん発症歴や血縁者のがん発症歴(家族歴)に基づいて、評価対象とすべき場合のさまざまな目安が示されています(表参照)。

 専門家によるカウンセリングでは、詳細な家系情報を聞き取って、血縁者に乳がんなどのがん患者がどの程度いるかといった家系図を作成し、遺伝リスクの2次評価を行います。その上で想定される遺伝性腫瘍症候群を選び出します。

 カウンセリングを受けた人に対しては、遺伝学的検査の意義や方法、費用などを紹介し、検査結果を解釈するために必要な知識も提供します。結果判明後の医学管理や患者を支える社会資源についても詳しく説明します。こうしたことで、実際に検査を受けるかどうかの意思決定を支援します。

 ◇HBOC疑われる患者、検査に保険適用

 乳がんに関わる遺伝学的検査で現在、多くの施設で行われているのは、最も患者が多い遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)の原因遺伝子「BRCA1」「BRCA2」の病的バリアントがあるかどうかを調べる検査です。最近は、BRCA遺伝子を含む複数の遺伝子の病的バリアントを一度に調べる検査キットも登場しています。

 BRCA遺伝子検査の費用は、全額自己負担だと二十数万円かかります。これまでは、進行・再発乳がん患者らに分子標的治療薬「オラパリブ」を投与するかどうかを判断する場合の検査に限って保険が適用されていました。しかし、今年4月からは、乳がん、卵巣・卵管がんを発症している患者でHBOCが疑われる人全ての検査を対象に、保険適用が認められることになりました。

    検査でHBOCと診断された患者には、新たな発症を予防するための「リスク低減乳房切除手術(RRM)」や卵巣・卵管切除術についても、保険が使えるようになったのは、前回の記事でも紹介した通りです。

 一方、BRCA遺伝子に病的バリアントのある人に対し、まだ全く発症していない段階で、両方の乳房を予防的に切除する「両側RRM」を本人の意思に基づいて実施することもありますが、こちらはBACA遺伝子検査も含めて自費診療になります。いずれにせよ、遺伝性乳がんの治療は、本人が発症・再発などのリスクと治療の選択肢を十分理解したことを前提に、本人の意向を聞きながら、進めていくことになります。

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