こちら診察室 よくわかる乳がん最新事情

第3回 乳がんの5~10%は遺伝性
再発予防の乳房切除、4月から保険適用 東京慈恵会医科大の現場から

 乳がんは、食生活などの環境因子が複雑に関与して発症するケースが大半です。例えば、アルコールの摂取や閉経後の肥満はリスクを確実に高め、喫煙もリスクをほぼ確実に高めると考えられています。しかし全体の5~10%は、遺伝性であるといわれています。

 日本人の乳がん患者を対象にした研究グループの調査で、「乳がんを発症しやすくなる」と報告されている11個の遺伝子を調べたところ、5・7%の患者に、いずれかの遺伝子でがんの原因となる「病的バリアント」(バリアントは以前は変異と呼んでいました)が見つかりました。

 この病的バリアントは生まれつきあるものです。もともとDNAの塩基配列は個人によって微妙に違う場合があります。病的バリアントとは、この多様性の中で、遺伝子の働きを変えて発症に影響するような塩基配列の違いが生じていることを意味しています。

 遺伝性の乳がんは、乳がん全体の中では少数派であり、その発症リスクがあるという情報を知ることは、人によっては心理的な負担が生じるかもしれません。それでも健康管理上は有用な面があります。

 ◇親から受け継いだ遺伝子がきっかけに

 遺伝性乳がんの原因疾患として、最も多いのは遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)です。「BRCA1」と「BRCA2」という遺伝子の病的バリアントが引き起こします。

 先の調査では乳がん患者の4・2%に、BRCA1、BRCA2のどちらか、または両方の遺伝子の病的バリアントが見つかりました。つまり、遺伝性乳がんの約4分の3は、HBOCによるものでした。

 残りの約4分の1は、小児期からさまざまながんを発症する可能性がある「リ・フラウメニ症候群」(原因遺伝子TP53)や、消化管のポリープに加えて甲状腺がんなどの合併が目立つ「カウデン症候群」(原因遺伝子PTEN)など、他の遺伝子の病的バリアントによるものでした。

 ◇HBOCの発症メカニズムとリスクは

 HBOCを例に取り、遺伝性乳がんを発症するメカニズムなどを具体的に見ていきましょう。

 多くのがんは、体内で遺伝子がコピー(複製)される時に付いた傷によって生まれます。本来、BRCA遺伝子は、この傷ついた遺伝子を修復するBRCAタンパク(酵素)を作り、がん細胞が生まれないように働く遺伝子(がん抑制遺伝子)の仲間です。

 ところが、BRCA遺伝子に病的バリアントがあると、BRCAタンパクがうまく機能しません。このため、乳がんや卵巣がんなどにかかりやすくなります。

 病的バリアントは、親から子へ50%の確率で伝わります(常染色体優性遺伝)。実際に病的バリアントを受け継いだ人を集め、長期間見守る研究を海外で実施したところ、80歳までの間に、約70%の人が乳がんを発症しました。さらにはBRCA1の病的バリアントがある場合に44%、BRCA2の病的バリアントがある場合に17%の人が卵巣がんを発症しました。

 日本の女性が一生の間に乳がんになる確率は9%、卵巣がんになる確率は1%ですから、非常に発症リスクが高いといえます。

 ちなみに男性でも、BRCA2の病的バリアントがあると、乳がんや悪性度の高い前立腺がん、治療の難しい膵臓(すいぞう)がんや脳腫瘍、白血病などの血液性がんを発症するリスクが高くなります。

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