2024/11/05 16:00
オイシックス・ラ・大地、東京慈恵医科大と共同臨床研究を開始
がん治療の化学療法時における、食事支援サービスの効果を研究
東京慈恵会医科大学内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科の永井洋介助教、的場圭一郎講師らの研究グループは、東京都医学総合研究所糖尿病性神経障害プロジェクトの三五一憲プロジェクトリーダー、八子英司主任研究員と共同で、ROCK1が糖尿病腎のエネルギー代謝を制御しており、糖尿病性腎症の重要な治療標的となることを示しました。
糖尿病性腎症は本邦における透析導入原疾患として最多であり、一部の糖尿病治療薬や降圧薬の有効性が報告されているものの、現状では腎機能悪化を完全に抑えることは出来ず、新しい治療法の開発が望まれています。本研究では、糖尿病性腎症の成因として注目されている腎臓のエネルギー代謝とミトコンドリア機能維持を、ROCK1が制御していることを世界で初めて明らかにしました。今回の研究成果は、現在開発が進む経口ROCK阻害薬の糖尿病性腎症に対する臨床応用や、ROCK1阻害薬の開発に繋がるものと期待されます。
研究のポイント
・糖尿病のヒト、マウスの腎臓でROCK1が過剰に発現していることを発見しました。
・糖尿病の腎臓において、ROCK1の過剰が脂肪酸の利用を障害し、ミトコンドリアの機能異常を引き起こすことで、腎機能を悪化させる機序を明らかにしました。
・ROCK1遺伝子が欠損したマウスでは、糖尿病状態の腎臓で生じる脂肪酸代謝障害とミトコンドリアの異常が緩和されました。結果として、ROCK1欠損マウスでは尿中アルブミン排泄量が減少しました。
・ROCK1を阻害することで糖尿病性腎症の進展を防ぐことが出来ると考えられます。
・今後はROCK阻害薬の糖尿病性腎症に対する適応拡大、さらにはROCK1阻害薬の開発を目標に研究を行っていく予定です。
メンバー
・東京慈恵会医科大学 内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科 助教 永井洋介
・東京慈恵会医科大学 内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科 講師 的場圭一郎
・東京都医学総合研究所 糖尿病性神経障害プロジェクト 主任研究員 八子英司
・東京都医学総合研究所 糖尿病性神経障害プロジェクト プロジェクトリーダー 三五一憲
・福岡大学 医学部 内分泌・糖尿病内科学講座 主任教授 川浪大治
・東京慈恵会医科大学 内科学講座糖尿病・代謝・内分泌内科 主任教授 西村理明
研究の詳細
背景
糖尿病性腎症は本邦の透析導入原疾患の40%以上を占めています。降圧薬であるACE阻害薬やアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬、血糖降下薬であるSGLT2阻害薬などに腎症進展抑制効果が示されていますが、それらを併用しても腎症の進行を完全に止めることは出来ず、新しい機序を介した治療法の開発が望まれています。
我々の研究チームは、細胞骨格形成や細胞収縮など、様々な細胞機能を制御することが知られる低分子量G蛋白Rhoとその下流の分子であるRho-kinase(ROCK)の活性化が、糖尿病性腎症進展の成因であることを示してきました。ROCKにはROCK1とROCK2の2つのアイソフォームが存在し、それぞれ独自の機能を持つことが示唆されています。現在臨床の場で使用可能なROCK阻害薬として、くも膜下出血後の血管攣縮に保険適応があるROCK1/2共阻害薬ファスジルがありますが、点滴薬であり長期投与が難しい点が課題でした。近年、経口投与可能なROCK2阻害薬ベルモスジルが開発され、呼吸器疾患や皮膚疾患に対する臨床試験が進行中であり、また経口ファスジルの開発も進んでいることから、腎症に対するROCK阻害薬の臨床応用が現実的になりつつあります。一方で、腎症の治療においてROCK1、ROCK2をともに阻害すべきか、ROCK1またはROCK2のみを特異的に阻害すべきかという点は十分に評価されていませんでした。
研究内容
糖尿病性腎症患者の腎組織を分析したところ、糸球体においてROCK1が過剰発現していることが明らかになりました。また、東京都医学総合研究所との共同研究で細胞のミトコンドリア機能を詳細に解析したところ、糸球体構成細胞の一つであるメサンギウム細胞において、ROCK1遺伝子の欠損がミトコンドリア機能を強く回復させることを発見しました。そこで、ROCK1がメサンギウム細胞のミトコンドリア機能を制御する機序を明らかにすることを目的に検討を進めました。
培養メサンギウム細胞を用いた検討で、ROCK1はミトコンドリア機能の維持に重要な脂肪酸代謝を制御していることが明らかになりました。詳細なメカニズムの検討により、ROCK1は細胞のエネルギー代謝を制御する転写因子であるAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性とペルオキシソーム増殖因子活性化レセプターγ共役因子-1α(PGC-1α)の発現を抑制することで、ミトコンドリアの脂肪酸利用障害が起こることがわかりました。脂肪酸利用が障害されたミトコンドリアは酸化ストレスを産生し、細胞はダメージを受けます。
ROCK1遺伝子を欠損させたROCK1ノックアウトマウスを糖尿病にした際に、通常の糖尿病マウスと比較して、糸球体の脂肪酸代謝関連遺伝子の発現低下・ミトコンドリアの形態異常から保護されることから、生体モデルでもこれらの機序が重要な意味を持つことが確認されました。またROCK1ノックアウトマウスでは尿中アルブミン排泄量が約20%減少しており、ROCK1を阻害することで実際に腎機能が改善することが示されました。
本研究結果から、腎症の治療においてROCK1を阻害する重要性が明らかとなり、すでに開発が進んでいる経口ROCK1/2阻害薬の臨床応用が望まれるだけでなく、将来的なROCK1阻害薬開発の強い理論的根拠となると考えています。
用語説明
Rho-kinase(ROCK):
低分子量G蛋白Rhoの下流に存在するタンパクで、Rhoとともに細胞骨格の形成や細胞収縮を制御します。他にも、細胞の遊走・接着、アポトーシス、各種遺伝子発現の制御など多面的な役割を持つことが知られています。ROCK1、ROCK2の二つのアイソフォームを持ち、発現部位や機能に違いがあることが示唆されています。
脂肪酸代謝:
体内の中性脂肪は、リパーゼという酵素により脂肪酸とグリセロールに分解され、脂肪酸は末梢組織でエネルギー源として利用されます。糖尿病では腎組織においてミトコンドリアにおける脂肪酸の利用障害が起きていることが明らかになり、糖尿病性腎症の成因の一つとして脂肪酸代謝が注目されています。
ミトコンドリア:
ほとんど全ての真核生物の細胞に存在する細胞小器官の一つで、生体反応に必須のエネルギー源であるATPを生成します。脂肪酸もミトコンドリアで代謝されてATPの原料となりますが、脂肪酸の利用障害などでミトコンドリアの代謝に異常が起きると、過剰な酸化ストレスが発生し、細胞がダメージを受ける可能性があります。
論文発表
本研究の成果は、2022年9月1日に「Kidney International」に掲載されました。
Nagai Y, Matoba K, Takeda Y, Yako H, Akamine T, Sekiguchi K, Kanazawa Y, Yokota T, Sango K, Kawanami D, Utsunomiya K, Nishimura R. Rho-associated, coiled-coil-containing protein kinase 1 regulates development of diabetic kidney disease via modulation of fatty acid metabolism. Kidney Int. 2022 Sep;102(3):536-545. doi: 10.1016/j.kint.2022.04.021.
本研究は、日本学術振興会科研費(21K20914)、日本糖尿病財団ノボ・ノルディスクファーマ研究助成の助成を受けて行われました。
【本研究内容についてのお問い合わせ先】
東京慈恵会医科大学
内科学講座 糖尿病・代謝・内分泌内科
講師 的場圭一郎
電話 03-3433-1111(代)
(2022/09/28 12:55)
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