教えて!けいゆう先生

医師が「余命〇カ月」「全治〇カ月」と簡単に口にできない理由 外科医・山本 健人

 医療現場を舞台にしたドラマを見ていると、「余命はどのくらいですか」というセリフを聞くことがあります。

 これに対して、医師が「3カ月です」と即答する。こういうシーンは、医療ドラマなどで昔からよくあります。

個人差もあって難しい質問ですが、医師もなるべく納得してもらえるように考えて答えています【時事通信社】

 また、けがをした患者さんに対して、「全治3カ月です」といったふうに断言する医師が登場することもあります。

 こうしたやりとりは、実際の医療現場で本当にあるのでしょうか。

 ◆正確な予言は不可能

 病気にかかったり、けがをしたりすると、多くの患者さんは「いつ治るのか」を正確に知りたいと考えます。

 あるいは、進行したがんなどの重い病気にかかった患者さんが「いつまで生きられるのか」を、医師に問うこともしばしばあります。

 治療期間によっては、日常生活や仕事など、身の回りのことを調整しなければならなくなるためです。
ところが、残念ながら医師は、ドラマの世界のように、明確に数字を伝えることはできません。

 身もふたもない話ですが、患者さんの体に起こる変化には、大きな個人差があり、未来を正確に予言することは、専門家でも不可能だからです。

 ◆どう返答するか

 とはいえ、病気やけがは、患者さんやその家族の人生に大きな影響を与えます。

 患者さんが治療の見通しを知りたい、と考えるのは当然でしょう。

 その思いに対して、「医学的に正確なことは何も分かりません」と答えるだけでは、専門家として無責任とも言えます。

 そこで私たちは、平均値や中央値のような統計学的なデータから、目安となる数字を参考として伝えるのが一般的です。

 例えば、進行したがんの患者さんが、予後について数値的な目安を知りたいと考える場合は、「あくまでデータ上ですが、生存期間中央値は○年とされています」と伝えることはあります。

 生存期間中央値とは、患者さんと同じ病気、病状の人たちの中で、生きられる期間を順に並べたとき「真ん中」に来る数字のことです。

 もちろん、人によって大きな個人差があり、特定の患者さんがその期間で亡くなることを予想するものではありません。

 ◆統計的な数値だけ

 病気やけがが治るまでの期間(治療期間)や入院期間を伝えるときも同じです。

 データ上の平均的な値を目安として伝えることはありますが、もちろん治療効果は人によって異なります。

 同じ病気、同じけがの人が同じ治療を受けても、中には回復に時間がかかったり、何らかの問題が起きて入院が長引いたりする人はいます。

 職場の上司などから、復帰までの期間をはっきり伝えるよう指示されて、患者さんが頭を悩ませるケースは少なからずあります。

 あくまで医学的に分かるのは統計的な数値だけです。

 一人ひとり、異なる人体に起こる変化を正確に予想するのは、難しいことを知っていただけるとありがたく思います。

(了)

 山本 健人(やまもと・たけひと) 医師・医学博士。2010年京都大学医学部卒業。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医、ICD(感染管理医師)など。Yahoo!ニュース個人オーサー。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、開設3年で1000万PV超。各地で一般向け講演なども精力的に行っている。著書に「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)、「すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険」(ダイヤモンド社)など多数。

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