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年を取ると物忘れをしたり、思い通りに体を動かせなくなったりする。そんな変化を疑似体験できる場がこのほど、日本科学未来館(東京)にできた。老化に伴って視覚や聴覚、脳の働き、運動能力がどうなるのかを身をもって感じられるつくりだ。総合監修者である国立長寿医療研究センターの荒井秀典理事長は「老いは誰にでも訪れる。変化を受け入れ、上手に付き合っていくことも人生100年時代には必要かもしれない」とコメントしている。
同館の常設展示が11月下旬にリニューアルされ、新たなコーナーの一つとして「老いパーク」が設けられた。スペース内には老化のメカニズムや現在用いられている対処法、研究開発中のサポート技術を紹介するパネルや映像のほか、老眼や白内障になった場合の見え方、耳が遠い人の声の聞こえ方などをゲーム感覚で体験できる機器が置かれている。記者は内覧会に参加し、一巡りしてみた。
近隣のスーパーに歩いて買い物に行くシミュレーター
◇青信号で渡り切れない!
まず挑戦したのは、運動器の老化を体感するシミュレーター。カートを押して商店街などを歩き、120メートル先のスーパーまで買い物に行くという設定だ。目の前の大きなスクリーンに風景(絵)が映し出されていて、その場で足踏みすると画面上で前に進める。年齢による筋力の低下を再現するため、足首に重りを付けて歩行時の負荷を高められる。
スタートした。リズミカルに足踏みしたものの、歩行速度は遅い。横断歩道では他の歩行者にぶつかったのに加え、青信号の間に渡り切れず、左折してきた車にクラクションを鳴らされてしまった。そうしたトラブルに見舞われた後もめげずに歩き続け、何とかゴール。足の重りが響いたのか、終了時にはわずかに疲労感があった。
頭の中で描く歩行イメージと画面上の動きが全く一致せず、終始もどかしかった。老いると筋肉量が落ちるのに加え、関節が動く範囲も狭まるなどの影響から小さく、ゆっくりとした体の動きになる。姿勢の悪化も長い距離の歩行や早足が困難になる要因という。
◇名前を聞き分けられず
次は聴覚だ。「サトウさん」「カトウさん」「アトウさん」のいずれかの名前を呼ぶ声が聞こえ、サトウさんと呼ばれたときだけボタンを押せばよい。三つの名前は確かに紛らわしいが、耳には自信がある。特に問題なくクリアできそうだ。実際、最初は難なく聞き分けられた。
ところが、「老化バージョン」に切り替わると状況が一変。呼び声がくぐもり、耳に届く声がかなり不鮮明になった。結果は10問のうち正解9問、不正解1問。隠さずに言えば、ヤマ勘で答えた問題が複数あったので、「実力」はもう少し下と言わざるを得ない。
耳が衰えると高音域から聞こえにくくなるという。高齢者が大きな声で通話する姿を見掛けたことがあるが、この体験のような聞こえ方をするなら人ごとではなくなってくる。自信が揺らいでしまいそうだ。
◇買い物の品を忘れた
脳の変化については記憶力が試されるゲームに参加した。買い物リストに記載された品物を覚え、陳列棚から探し出すというものだ。脳が老いると、短期記憶や注意力などが低下しやすくなるとされる。ゲームにはリストの品を記憶し続けるのを邪魔する仕掛けも用意されており、惑わされずにやり切るのは簡単ではない。こちらも全問正解とはいかなかった。ちょっぴり悔しい。
パネルの説明文によると、脳には機能を保とうとする「予備力」があり、やりがいを感じる活動を継続すると予備力は高まる。脳の衰えを抑制するために、打ち込める仕事や趣味などを持つことが大切としている。
自身の豊かな老いについて考えてみよう
◇体の変化と上手に付き合う
詳しく触れなかった目の老化体験を含め、各ゲームではできるだけ良い結果を出したいという気持ちが前に出て、年がいもなく入れ込んでしまった。女性でも男性でも「いつまでも若さを保ちたい」と願う人は少なからずいるだろう。
ただ、この展示の大きな狙いは、加齢による変化とうまく付き合う方法に思いを巡らせてもらうことだ。そのため、展示の最後に、自分自身の望ましい老いについて来場者に想像を促すエリアが設けられている。
同館の担当者は「老いに対するイメージが湧かない人は、この疑似体験を通して具体的な想像を膨らませ、今まさに老いと向き合っている人は、自分の体に起こっていることへの理解を深め、変化と上手に付き合うさまざまな考え方を知ってほしい」と話した。(平満)
(2023/12/20 05:00)
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